TREMOLO [ANNEX]

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だって大好きなんだもん!



 ボクの恋人は完璧だ。
 いきなり惚気かよと思われるかもしれないけど、それでも言わせて欲しい。ボクの恋人のモラクスは、本当に完璧だ。
 聡明で民想いの優しい神様だし、武神と呼ばれるぐらい武芸も達者だ。彼を崇拝する民は多いし、同じ七神では最も信頼されて頼れる存在。
 まさに非の打ちどころのない内面を持っている彼は、その容姿も完璧なのだ。
 美丈夫という言葉は彼のためにあると言っても過言ではないだろう。
 でも格好良さが鼻に突くわけでもなく、時折見せるちょっとおちゃめな一面なんてカッコいいから可愛いに形容詞を変えてしまう魅力の持ち主だ。
 そんな完璧な彼に出会って恋に落ちないわけがない。かく言うボクも出会って三秒で恋に落ちてしまったんだから。
 抱いた恋心を憧れだと誤魔化していたのは、今ではいい思い出だ。だって絶対に叶わぬ恋だと思っていたから。
 当時のボクは、『報われない恋心は永い時間をかけて甘酸っぱい初恋の思い出として詩にする時が来るのだろう』なんて思っていたぐらいだ。
 でも、運命とは実に不可思議なもので、何が起こったのかは知らないけれど、彼から『好きだ』と告げられたのは出会って一〇〇年が経とうとしたころ。
 言葉の意味が分からず驚き絶句していたボクの記憶は途中で途切れていて、その当時をはっきりとは思い出せないことが悔しい。
 けどそれからずっと仲良く――偶に喧嘩もするけれど―――過ごしていたボク達は、驚くなかれ、今度一緒に暮らすことになったのだ。
 神の座を降りて随分経ち、お互いの国では『神』という存在が『守護者』ではなく『信仰』という形に変化している。
 そんな自国でボクもモラクスも『凡人』として暮らしていたわけだけど、『凡人なら凡人らしく家族にならないか?』と提案されたのはつい先日の事だった。
 互いを想って逢瀬を待ちわびる時間も良いけどそれでもボクと別れる時が寂しくて堪らなかったなんて言われたら、ボクだって堪らない気持ちになるってもんだ。
 二つ返事で提案を受け入れたボクにモラクスが見せたのはそれはそれは神々しいまでの微笑みで、正直その微笑みだけで召されるかと思ったものだ。
 モラクスが嬉しいとボクも嬉しいから、善は急げと一緒に暮らす準備を猛スピードで進めてきたおかげで、今日、ボク達はモンドと璃月の国境に引っ越してきたというわけだ。
 片付けを進めるモラクスを盗み見るボクは、何をしても様になる恋人の姿に改めて思う。やっぱりボクのモラクスは完璧だ。と。
 立ち姿も座る姿も屈む姿も手を伸ばす姿も全部全部完璧だなんて、本当、狡い。またボクだけモラクスのことを好きになってしまうじゃないか!
 あまりにも不公平だから、モラクスもボクほどとは言わないけどせめて10分の1ぐらいはボクの事好きになっていって欲しいと思ってしまう。
 まぁ、ボクがそれを口に出せば、モラクスは『分かった』って言うんだろうけど!
(そういう優しい所も好きだけどね!? でも、ボクが言わなくても好きになって欲しいんだけどどうしたらいいのかな!?)
 贅沢な悩みだって分かってるよ。分かってるけど、でもだって好きなんだもん! もっと好きになって欲しいって思って何が悪いのさ!
「バルバトス」
「! 何?」
 今日から一緒に暮らすんだから、もっと好きになってもらうチャンスは沢山あるはずだ。
 だからボクができる努力は全部してもっと好きになってもらうんだ!
 なんて意気込んでたら、かけられる声。
 聞いているだけで幸せな気持ちになる音にまたボクだけが好きになってしまった。
 悔しいと思いながらも平静を装い返事をすれば、モラクスは何故かくすくすと笑っていた。
(その『仕方ない奴だ』って笑い方も好きなんですけど!?)
 ぷくっと頬を膨らませて不機嫌をアピールすれば、笑ったことを謝って来るモラクス。
 でもボクが不機嫌になったのは笑われて腹が立ったからじゃなくて、その笑い顔でまたボクだけ好きになった事が腹立たしいからだから見当違いな謝罪だった。
 まぁ、拗ねた本当の理由を馬鹿正直に伝えるつもりはないから膨らませたほっぺたから空気を抜くんだけどね。
「今回は許してあげるけど、でも顔を見るなり笑うのはどうかと思うよ?」
「すまない。だが、お前は本当に俺の顔が好きだなと思ったらどうにも我慢が出来なかった」
 謝ってるけど顔、笑ってるからね? っていうか、思い出し笑いもそうだけど、その後! 聞き捨てならないんだけど!?
「なんだ、無意識だったのか? ……ああ、そうか。毎度毎度盗み見ていたから気付かれているとは思っていなかったのか」
「なっ―――、ちょ、どういうこと!? まさかボクがずっと君のこと見ていたって知ってたの!? 今までずっと!?」
「当たり前だろう? お前は俺を見くびり過ぎだぞ」
 クスクスと笑うモラクスは手に持っていた本を床に置くと優雅な足取りでボクの方へと歩いて来た。
 近くなる距離に心臓がドキドキして煩い。全部バレていたことが恥ずかしいし、それを今まで黙っていたモラクスに腹も立つのに、それでもやっぱり好きだと思ってしまう。
 広がる一方の『好き』の大きさに、ボクはまた頬を膨らませてしまう。
 ボクの目の前で足を止めるモラクス。
 身長差のせいで見上げるように睨むボクにモラクスが向けるのはすっごく嬉しそうな笑い顔。
 ボクを恥ずかしがらせておいてそんなに喜ぶなんて、意地悪過ぎない?
 もう三〇〇〇年近く一緒に居るけど、そんなドエスな一面、はじめて知ったんだけど??
「そうだね。君は『戦いの神様』としても有名なんだからボクの視線に気付かないわけないよね?」
 言われてみれば、そうだ。魔神戦争で戦いの最前線に立っていたモラクスが気付かないわけがない。
 きっと盗み見ていたつもりのボクの視線は『好き好き』って煩かったに違いないから。
「鬱陶しいぐらいに煩い視線を送ってごめんね?」
「何を言っているんだ?」
「だから、君のことが好きだなぁって思いながら見てたから気付いたんでしょ?」
「そんなことを思っていたのか」
 一瞬驚いた顔を見せるモラクスは、その後また嬉しそうに笑う。笑ってボクのほっぺたを大きな手で撫でてくる。
 ボクに触れる優しい手に思わず頬擦りすれば、身を屈めるモラクス。そのまま唇にちゅって触れるだけのキスをくれる恋人はボクの扱いを良く分かっていると思う。
 大好きな恋人からのキスにすっかり上機嫌になったボクってちょろすぎるかな? でも、振りでも不機嫌になれないんだから仕方ないよね。
「言っておくが、殺意や敵意が無ければ俺とてただの視線には気付かないからな?」
「え? そうなの? でもボクが見てるの気付いてたんでしょ?」
「それは俺もお前を見ていたから気付いただけだ。尤も、お前は俺がお前を見ている事に気付いていなかったようだが?」
 にやりと悪戯に笑うモラクスの言葉にボクはぽかんと間抜け面を晒してしまう。
 言葉を理解しようと必死に頭を働かせていれば、「呆けている姿も愛らしいな」なんて言ってまたキスされた。
「今日から此処が俺たちの家だ。どうする、バルバトス。恥ずかしいと逃げ帰る場所が無くなったぞ?」
「! だから言ったの!?」
「ああ。これまでなら、言えば恥ずかしいとお前が逃げ帰ると分かっていたからな」
 笑いながら抱きしめてくるモラクスは、今日から心置きなく愛を伝えられると満足そうだ。
 驚きの連続にボクが変な声をあげていたら、隠していた『想い』を逃げずに受け取るようにって言ってくるモラクス。
「自分の方が愛していると思っているお前には悪いが、圧倒的に俺の方が愛しているからな?」
「!?」
「可哀想なバルバトス。お前はもう龍の腹の中だ」
 そう言って笑うモラクスは、またキスしようとしてきた。
 ボクはそのキスが欲しいと思いながらも、でも待ってとストップをかけた。だって『自分の方が好きだ』なんて言われたら、聞き捨てならないよね??
「何故止める?」
「だってモラクスが意地悪なこと言うから! 絶対ボクの方が君のこと大好きなのに、そんなことないって、いう、か―――んっ」
 キスを止めたボクの手にキスを落とすモラクスは優しく指先を握り、退けるよう促してくる。
 反論してるボクはその温もりと眼差しに言葉を詰まらせてしまって、結果、止めたはずのキスを受け取ってしまって……。
(大好きぃ……モラクス、好きぃ……)
 気が付けば彼の首に腕を巻き付け、つま先立ちになってしまっていた。
「今日中に荷物を片付けておこうと思っていたが、お前のせいで台無しだな」
「ん……、ごめんモラクス……」
 軽口のためにキスを中断しないでよ!
 もっといっぱいキスしたいとボクが強請れば、モラクスは「それならば」とある提案をしてきた。
「俺はお前からの口づけが欲しい」
「? ボクからの? 今してるのは、違うの?」
「今は俺からしているだろう? 以前してくれたように、お前が満足するまでお前から口づけてくれないか?」
 モラクスが言ってるのは、昔木陰で休息をとっていたモラクスの寝込みをボクが襲った時のことだろうか?
 確かにあの時はボクからいっぱいキスしたけど、でもそれはモラクスが眠ってると思ってたからで、そうじゃなかったら恥ずかしくてできないからね?
「なんだ。まだ恥じらいがあるのか? 口づけ以上のことも散々しているのに?」
「そういう問題じゃないでしょ! エッチの時は、その、『モラクス大好き!』って訳分かんなくなってるから結構平気だけど、でも、キスはほら、違うでしょ……?」
 自分で言ってて『何が違うんだ』と突っ込んでしまうぐらいだ。モラクスからすれば意味が分からなくて当然だろう。
 でも優しいモラクスはそれを笑いこそすれ、呆れたりはしなかった。むしろ、「可愛いな」って鼻先を齧られた。
(もー! もー!! 大好きなんですけどぉ!?)
 なんで齧るんだ。なんて野暮なことは言わない。
 ボクはモラクスの上着を引っ張って、キスし辛いから座ってよとお願いした。
 ボクのお願いに笑ってボクを抱き上げるモラクスは、そのまままだ配置が決まっていないソファに腰を下ろした。
 緩んだ腕にボクは身を捩ってモラクスの腿を跨ぐように座りなおすと大好きで堪らない精悍な顔の造形を確かめるようにその頬を包み込んだ。
「目、閉じてよ?」
「これでいいか?」
「ん。いいよ」
 促せば素直に琥珀を隠すモラクス。穏やかな笑みを称える大好きな存在にボクはどう頑張っても見惚れてしまうのだ。
 いつまで経ってもキスもせず、それを待っているモラクスの顔を眺めていればふっと笑われてしまった。
 琥珀を隠したまま早くキスをと促され、ごめんと謝るボク。モラクスが返すのは、やっぱり優しい笑みだった。
「モラクス、大好き。愛してる……」
 ありったけの想いを言葉と唇に込めて贈るキス。
 ちゅっと触れ合う唇から伝わってくるぬくもりに夢見心地になってしまうのはボクだけだろうか?
 ゆっくりと唇を離して閉ざしていた瞳を開けば、ボクよりも先に目を開けていたモラクスの琥珀が飛び込んできた。
「……その一度で満足か?」
「ううん。もっとしたい。……ダメ?」
「ダメなわけがないだろう? だが、お前が満足した後は俺に可愛がらせてくれ」
「いいよ。……モラクスが満足するまで、いっぱい可愛がってよ?」
「ああ。契約成立だ」
「うん。契約成立、だね」
 再び琥珀を閉ざすモラクスに、ボクはこの想いを表す言葉が見つからないと唇に託してキスを贈るんだ。

 

オトさんから頂いたもの!






[終]




2024-03-11 公開



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