種の存続を目的とした本能による欲求。
それらを感じながらもこれまで他者と交わろうと思ってこなかった鍾離とウェンティだったが、お互いと出会ってから世界が一変した。
繁殖するためではなく、ただお互いが愛おしいから触れたいと願い、求め抱き合うのだと知った二人は、何度も何度も繰り返し手を伸ばし求め合ってしまう。
鍾離は己に身を委ね荒々しい欲を受け止めてくれるウェンティへの愛おしさを募らせ、もっと近くに感じたいと理性を失ってゆく。
ウェンティは鍾離が齎す全てを心から喜び、ぬくもりや重みだけでなく、快楽も痛みも自分だけのものだと意識を朦朧とさせた。
昨晩も繰り返し愛し合ったはずが久しく触れ合っていなかったかのように貪欲に求め合ってしまうのは偏に愛故ということにしておこう。
愛し尽くしたい想いのまま本能に身を任せた二人の熱が引いたのは、陽の光が天高く昇った頃だった。
手足に錘を付けられたかのように全身を襲う倦怠感。
それに情事の余韻を纏わせぼんやりと鍾離の腕に納まっていたウェンティは、自身の髪を撫でている鍾離に喉が渇いたと掠れた声で訴えた。
「わぁ……、すごい声だ……」
「無理に喋るな。喉を痛めるぞ」
「誰のせいだと」
「分かっているから労わっているんだろう?」
その言葉に、ウェンティが返すのは睨み顔だ。君にとって自身の腕に抱いて髪を撫でる行為は労わりでしかないのか。と。
目は口程に物を言うという言葉に従い無言で訴えかけるも、思いが足りなかったのか伝わらない。
どうかしたのかと心配そうな、それでいて不思議そうな顔で見下ろしてくる鍾離。
説明する前に咽喉を潤したいと手を喉元に添えるジェスチャーを取れば、先の言葉を思い出したのか抱擁が解かれた。
水を取りに行くのだろうことは分かっているのだが、離れたぬくもりに淋しさを覚えるのは仕方ない。
二人で眠るには大きすぎるベッドの上で一人残されたウェンティは、まだ鍾離のぬくもりの残るシーツをなぞり、淋しさを紛らわせた。
ほんの数分離れるだけで淋しいのは、まだ愛し合った熱が身体に残っているせいだ。
そんな言い訳を自分にしながら待っていれば、鍾離が水の入ったグラスと共に茶器を手に閨に戻って来た。
水を飲むため身体を起こすべきなのだろうが、それすらも怠い。
ウェンティはベッドに身を任せたまま鍾離を見つめた。
今度は眼差しに込めた思いを汲み取ってくれたのだろう。
優しく微笑みを浮かべた男は手にしていた茶器のセットをテーブルに置くとグラスを手に取りそれを己の口に含んだ。
覆い被さってくる鍾離はそのまま口づけを落とし、ウェンティの喉は彼の唇から流れ込んで来る液体で潤っていった。
こくりこくりと喉を潤した後も暫く唇が離れなかったことは、想定の範囲内だ。
「ふふ。君って案外キスが好きだよね?」
「それはお前だろう? 俺は口づけだけというわけじゃないからな」
「それはボクだって同じだけど?」
「ほう。俺は今、今日はこのまま存分にお前を愛し尽くしても良いという許しを得たと思っているが、間違いないか?」
「其処は間違っていると訂正させてもらおうかな。何度も言っているけど、ボクは君のように体力が無いってことをいい加減覚えてくれる?」
「体力が無いなら、つければいい。そのための『運動』だ」
「今の言い方、ちょっと……いや、かなり変態的だね」
「同感だ」
体力づくりにもう一戦。
そんな言葉とは裏腹に、鍾離はグラスをテーブルに戻すとベッドに寝転がり、先程までと同様優しい腕で抱きしめてきた。
纏う雰囲気は甘い。でも、それだけだ。
「……夜までこうしてていい?」
「ああ。勿論だ」
眠りたくなったら眠ればいい。
目尻を下げた鍾離から与えられる額への口づけ。
ウェンティははにかみと共に小さく頷き、夜までゆっくり休もうと安心できる腕の中で覚えた微睡に身を任せた。