TREMOLO [ANNEX]

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ずっと二人で…

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「もしそんな方法があったとして、俺が教えると思うか?」
「! だーかーら! ボクが君を嫌いになることは絶対にないって言いたいだけだってば! 分かってるくせに!」
 昔を思い出して物憂げになっていたウェンティの耳に届くのは鍾離から投げかけられた問いかけ。彼には過去を思い出して落ち込んでいることなどお見通しなのだろう。
 意地悪な質問だと噛み付けば、「それは分かっている」と返される言葉。
「分かっているが、もし本当にそんな方法がこの世に存在したとして、俺がそれを放置していると思うか? と聞いているんだ」
 声が少しだけ不機嫌だと思うのは、気のせいだろうか?
 そしてその不機嫌の理由が愛故だと感じるのは、自分の勘違いだろうか?
 様子を窺うように「それは、思わないけど……」と返答すれば、良かったと声色に優しさが戻った。
 ハンドルから離された手が伸びてきて、それはぽふっと頭にのせられる。大きな手で愛おしそうに髪を撫でられたら、堪らない気持ちになってしまうから困ったものだ。
 ウェンティが視線を恋人へと向ければ、彼は前を向いたまま笑みを浮かべている。
 ハンドルに戻される手が髪から離れ、それを淋しいと思ってしまうのは仕方ない。だってこんなに大好きなのだから。
「もしお前が俺を嫌いになる何らかの手法がこの世界の何処かにあるとすれば、俺は如何なる手段を用いてでもそれがお前の手に渡る前に消し去ってやる」
「もしその方法があったとしても、今のボクには必要ないものだから放置していいってば」
「だが、何があるか分からないだろう? 良からぬことを企てる愚か者がお前にそれを強要するかもしれない」
 一体何を想像したのか。また不機嫌面になった横顔に、ウェンティは思わず笑ってしまった。
「今日のモラクスは随分想像力豊かだね?」
 空想に耽る小さな子供みたいだと揶揄すれば、誰のせいだと責任を押し付けられてしまう。
 別に想像力を掻き立てるような言葉を口にした覚えなど無いウェンティは、どういうことだと首を傾げた。
「お前が俺を嫌いになる方法があればそれを実践するようなことを言ったからだろうが」
「もー! そんなこと一言も言ってないでしょ? ボクがどれほど君の事が大好きかって伝えたかっただけの比喩表現に目くじら立てないでよ」
 とんだ誤解だと驚きの声を上げるウェンティ。
 しかし鍾離は自身が二度口にした『ウェンティが自分を嫌いになる』という言葉に酷くダメージを負ってしまったと言ってきて、責任をとるよう求めてきた。
「えぇ? 自分が勝手に口にしておいて?」
「そうさせたのはお前だ」
「言いがかりにも程があるよ!」
 いい年をした大人なのに、大学で学生を指南する教授様なのに、まるで幼子のような我侭な一面にウェンティはくすくすと笑った。
 自分だけが見ることのできる『鍾離』は、我侭だろうが暴君だろうが愛おしいことには変わりない。
「でも、まぁ一応聞いてあげる。ボクは何をしたらいい? どうすれば君の傷を癒せるの??」
 尋ねれば、不機嫌を露わにしていた横顔が意地悪な笑い顔に変わった。
「俺を癒す方法は聞かずともよく知っているだろう?」
 一瞬だけ向けられる視線。その眼差しに宿るモノが何か分かったウェンティは、「いけない先生なんだから」と笑った。



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2024-02-19 公開



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