「お前はいつになったら俺がどれほどお前を愛しているか理解するんだ」
「えぇ? いきなり何?」
ハンドルを握る鍾離はゆっくりと車を走らせながら尋ねてくる。
その表情に浮かぶのは苦笑いで、十分理解しているのにどうしていきなりそんなことを言うのかと首を傾げてしまうウェンティ。
鍾離から返ってくるのは苦笑だけで、言葉は返されない。
ますます意味が分からないウェンティは唇を尖らせシートに身体を沈めるとやり取りで自分は何か変な事を言ってしまったのだろうかと思い返す。
しかし思い返したところでこれだ! と思うやり取りは無く、何故そう思ったのか分からないと改めて鍾離に説明を求めた。
「分からないのか?」
「分からないから聞いてるんだけど!」
君に教えを乞う優秀な学生のように頭が良くなくてごめんね!
そう嫌味たっぷりに返せば、拗ねるなと手が伸びてきた。
運転中だとそれを嗜めるように叩くウェンティに、鍾離が返すのは、そう言うのなら拗ねるなといった困ったような声だった。
「勘違いして拗ねているお前を前に、抱きしめたいと思わないわけがないだろうが」
「勘違いって何に対してさ?」
「俺とてお前に触れて欲しいと思っているに決まっているのに、お前は俺がそれを拒んでいると思っているんだろう?」
前を向いたまま苦笑いを零す鍾離は、「俺の愛が伝わっているのならそんな勘違いはしないはずだ」とウェンティが先程心の中で落ち込んでいた理由をズバリと当ててきた。
どうして分かったんだと驚きの声を挙げれば、四六時中想っている相手のことだから分かると返された。
そんなことを言われれば、自分は四六時中鍾離を想っていないと言われているようだと眉を下げるウェンティ。
だが、愛し方が足りなかった自分のせいだと鍾離は笑った。
「俺がどれほどお前を愛しているか、きちんと理解させてやるから安心しろ」
「だから! モラクスがボクの事大好きってことはちゃんとわかってるってば!」
「『大好き』ではなく『愛してる』だ。お前が居ない人生など考えられない程―――、いや、お前が居ない人生になど興味がない程愛している」
もしもお前が俺のもとを去ると言うのなら、その時はどうか俺を殺して行ってくれ。
そんな物騒な事を笑いながら言ってくる鍾離にウェンティは目を丸くして、バカじゃないの!? と詰ってしまう。
「そもそも、もしボクが君の傍から居なくなる時が来るとすれば、それは君がボク以外の人を好きになった時だからね?」
「つまり、自分から俺に愛想を尽かせることは無い、と?」
「当たり前でしょ? 君を好きじゃなくなる方法があるのなら、むしろ教えて欲しいぐらいなんだから」
心は自分自身ですら御せない難解なモノ。それ故、鍾離に片想いをしていた頃何度思った事か。彼への想いを全部忘れてしまいたい。と。
当然、願ったところで想いが深まるだけで忘れることなど叶わなかった。
その事実はウェンティを絶望させ、自分は永遠に心を奪われたまま一人鍾離を愛し続ける苦しい人生を送るのだろうと、何度も枕を濡らしたものだ。
思い出したウェンティが覚えるのは、僅かな胸の痛み。それは過去の幻影だと分かっているのだが、どうしても気持ちが沈んでしまう。