「! おかえりなさいませ、教授」
「ただいま。不在中に何か急ぎの要件などは無かったか?」
「はい! 大丈夫です! 何人か教授に質問があると学生の訪問がありましたが、其方は私と魈先輩とで対応できましたので」
「そうか。ありがとう、甘雨。魈も、世話をかけたな」
「もったいないお言葉を。……ところで、あの、姿が見えませんが……」
鍾離の背後を気にするように身体を傾ける魈。それに倣うように甘雨も魈とは反対方向に身体を傾けていて、二人の様子に鍾離は苦笑を漏らしてしまう。
自分の恋人は確かに小柄だが、背後に隠れて見えなくなるほどではないはずだからだ。
二人の仕草に、この様子を見たらきっと機嫌を損ねるだろうと想像する鍾離。
彼の表情に浮かぶのは優しい笑みで、この場にいない恋人を想っている事は一目瞭然だった。
言葉無く惚気られた気分だと魈は口を噤み、甘雨は顔を赤らめている。
そんな助手達に気付かない程、鍾離の思考は愛おしい恋人に傾いていた。
「学生達が見ていた動画だが」
「! はい! えっと、動画、ですか?」
「ああ。俺達が昼に出る前に此処で団子になって見ていただろう?」
講義に出るためか、それとも帰宅したのかは分からないが、既に研究室に居ない学生三人が居た方向を振り返る。
するとそれに甘雨は「ああ!」とポンと手を叩き、確かに三人は楽しそうに何か動画を見ていたと思い出す。
だが、三人が動画を見ていたことがなんだと言うのだろう?
まさか、違法なものだったのかと表情を青くする甘雨。
自分の監督不行き届きだとこの世の終わりをほうふつとさせる絶望を滲ませる彼女に、魈は呆れたような口調で「落ち着け」とため息を吐いた。
「やはりあの楽曲はバルバトス様が?」
「! え?! そうだったんですか!?」
「甘雨、落ち着け。三度目はないぞ」
「うぅ……はい、魈先輩……」
話が進まないと睨まれ、しょんぼりと肩を落とす甘雨。
二人のやり取りに鍾離は苦笑を漏らし、魈に向き直ると先の質問に肯定の言葉を返した。
「まだその話題で盛り上がっていた場合、此処は居心地が悪いからと言って先に帰ってしまった」
「そう、ですか……」
「……安堵しているように見えるのは、気のせいかな?」
「! そ、そんな! 教授の伴侶であられるウェンティさんを邪険に思うなどっ!!」
必死の形相で誤解だと訴えてくる魈に鍾離は笑う。
大人気ないことをしてしまったと反省するのは、先の意地の悪い問いかけが、ウェンティが魈と甘雨を気にかけていたことへの嫉妬だったからだ。
そんな鍾離の心中など知らない盲信者は、ただあの人の見た目が! と敬愛する教授のキャリアを心配しているだけだと必死に弁解を並べていた。