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それは唯の思いつきだった。
平穏な日常に物足りなさを感じていたタルタリヤは偶然見かけた懐かしい姿に『昔』を思い出してしまった。
巡った衝動のまま行動を起こした男は今、『自分は此処で死ぬかもしれない』と己の最期を悟った。
狂戦士の誤算
一度汚水を啜った者は、決して光の輪に戻ることは叶わない。
幼少期に直面した絶望はタルタリヤの心を容赦なく壊し、歪んだ信念を抱かせた。
力こそが正義であり生き残るために最も必要なモノだと妄信した少年は禁忌に触れ、己の命と引き換えに莫大な力を手に入れた。
年を重ねるごとに強くなる力への渇望。誰よりも強く、そしてより強大な力を。その一心で戦いに身を置いたタルタリヤは、契約を絶対とする国で一人の男に出会った。
七神の一人、岩の魔神と崇められた存在。彼を見た瞬間、タルタリヤが感じたのは己の敗北。誰にも負けることのない力を得たはずだったが、それは所詮人間同士での話だと痛感した。
思い出したのは、過去。フラッシュバックした圧倒的な絶望に、タルタリヤはいつか必ずこの男に打ち勝つと密かな誓いを立てた。
己との誓いを果たすためタルタリヤはこれまで幾度となく岩の魔神改め鍾離へと手合わせを願い入れた。
だが、その度に鍾離は子どもを宥める様に笑い、『公子殿は戯れがお好きなようだ』と軽く流され続けた。何度も、何度も。
最初こそ覚えた屈辱。だが、そのすぐ後に異国からの旅人と出会い、タルタリヤの興味は鍾離から其方へと移行した。
自分よりも小さな体躯で自分以上の強さを持つ旅人に夢中になったのは今ではいい思い出だが、旅人が旅の終着点にたどり着いたと同時に世界は大きく変化した。
今まで至る所で燻っていた戦いの火種は跡形もなくすべて消え去り、かつてない程穏やかな世界が自分達を待っていた。
これほどまでに穏やかな世界を自分は見たことがない。
そんなことを思いながら仕事で立ち寄った懐かしき璃月港の高台から街並みを眺めるタルタリヤ。
これから世界が向かう先には自分が望む『混乱』は存在しないのだろうと漠然と感じ、言葉では言い表せない虚無感を覚える。
この世界で自分は武器ではなくペンを持って日々と『戦う』のかと他人事のように考えていれば、これまた懐かしい姿を見つけることになった。
契約の神として璃月で今もなお崇拝される岩の魔神モラクス―――いや、鍾離。
出会った頃と全く変わらないその風貌に、封印したはずの血が騒いだ。彼と戦い、打ち負かしたい。その願望はいまだ健在のようだ。
だが、いくら強く望もうが相手にその気がなければ戦いは面白くない。命がけの殺し合いに勝ってこそ、力は実感できるものだから。
これまで何度懇願しても首を縦に振ってもらえなかったのだ。そんな相手を今更頷かせる方法など思いつくわけがない。
結局自分は勝負もせず負けたままなのか。
そう肩を竦ませ仕事に戻ろうとしたタルタリヤ。
だが、視線を鍾離から外す直前、彼が初めて見る表情で笑っていることに気が付いた。
何度か見た愉快だと笑う楽し気なそれではなく、もっとこう、熱量を帯びたような―――。
「ああ。なるほど。アレは鍾離先生の恋人か」
鍾離の笑顔の先に居るのは、緑髪の少年。後姿故はっきりとは分からないが、璃月では珍しい服装から見るにおそらくモンドの出身者だろう。
鍾離は少年を前に信じられないほど表情を変えて見せた。呆れ顔も困った顔も、それなりに永い付き合いだが初めて見た。
よほど相手に心を許しているのだろうと知れるその様子に、タルタリヤの脳裏にはある馬鹿げた計画が過る。
それはあの少年を利用して『手合わせ』を承諾させようという命知らずなものだった。