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『思いついたが吉日』という言葉に従い、タルタリヤは直ぐに行動を起こした。
落下防止の柵を颯爽と飛び越え躊躇うことなく高台から階下へと降り立てば、上空から人が落ちたと悲鳴のような声が聞こえる。
タルタリヤは危なげなく大地に足を着けると空を仰ぎ見て此方の様子を窺っている人々の影に手を振ってみせた。問題ない。と笑顔で。
どよめく声はまだ聞こえるが、これ以上は放置でいいだろう。
自分を心配してくれた人々の優しさに踵を返すタルタリヤは先程見つけた姿を探し、雑踏の中に紛れるよう歩いた。
歩みを進めながらタルタリヤが思い出すのは先刻初めて見た男の顔だ。
言葉にされずとも、鍾離にとって緑髪の少年が特別だということは分かった。そして同時にあの少年が鍾離の弱点であるということも。
このまま行けばすぐに二人のもとに辿り着くだろう。だが、真正面から声をかけることは馬鹿のすることだ。
正攻法で挑んでもおそらく自分は少年を利用することはおろか、手を伸ばすことすら叶わないだろう。
勿論それは鍾離からの反撃が想定されるからではない。それであれば願ったり叶ったりな状況だから。
タルタリヤの脳内で繰り広げられるシミュレーションではいつも通り端正な顔立ちに笑みを浮かべたまま世間話に興じる鍾離と自分の姿があり、そして鍾離の背後には緑髪の少年が恋人の背に隠れるように立っていた。
隙を見て少年を奪い取ろうとするのだが、数多の戦を乗り越えてきた男がそれを許すわけがない。
機会は訪れないままやがて話題が尽き、立ち去る二人。その背を見送りながら己の短慮さを嘆くところまでは容易に想像できた。
「鍾離先生ってパッと見た感じだけなら結構隙だらけなんだけどなぁ」
そもそも不意を突くことができるのなら、今日まで一度も『願い』が叶わなかったこともなかっただろう。
タルタリヤは仕方ないと一人ため息を吐き、目的達成のためには手段を選んでいる場合ではないと自身に言い聞かせた。
人の波を縫うように歩みを進めていれば、程なくして目的の人物が見つかった。
埠頭の近くでライアーを片手に音を確認するように弦を弾く緑髪の少年の姿。しかし先程まで少年の傍に居たはずの鍾離の姿は何処にも見当たらなかった。
「これは女神が俺に『行け』と言っているってことかな?」
二人が別行動を取るまで待つつもりだったタルタリヤは、作戦が実行可能になるまで数日は有するだろうと覚悟していた。
それなのになんと幸運なことか。タルタリヤは鍾離が戻る前に目的を果たすべく、迅速に行動する。
「こんにちは。良い音色だね」
「こんにちは。まだ調弦してる段階だけど、褒めてくれてありがとう」
不意を突くよう少年の耳元に唇を寄せ囁きを落とすタルタリヤ。しかし少年は予想に反して肩を震わせ驚く素振りなど微塵も見せず、それどころかつい先刻まで喋っていた相手と会話を続けるような雰囲気で笑顔を返してきた。
完全に油断してたところにこんな声の掛けられ方をしたのなら、普通なら驚き相手を警戒するところだ。それなのに少年はは驚きもせず、また警戒も皆無だった。
だがそれは当然だ。振り返った少年に驚いたのはタルタリヤの方だった。
「なんだ、君か……。確か、えーっと、モンドの吟遊詩人で『ウェンティ』、だっけ?」
「ボクのこと、一応覚えていてくれたんだ? 嬉しいなぁ。ファデュイの執行官に名前を覚えてもらえるなんてボクもなかなか有名になったものだね」
「元、な。……それで、俺は茶番に付き合うべきなのかな?」
嬉々として話しかけてくる少年、改め、ウェンティにタルタリヤが見せるのは脱力だった。
(うーん……、鍾離先生って風神と仲悪かったんじゃなかったっけ? 俺の記憶違いか?)
戦うことに意識を全て注いでいたため、戦いに結びつかないだろう情報は基本的に聞き流していた。
そのためターゲットの背景や交友関係については当時はまだしも今となってはあやふやもいい所だ。
おかげで今混乱する羽目になっているのだから、己の短慮な行動のツケが何処で回ってくるか分かったもんじゃない。