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無数の刃に切り裂かれたのならば、本来は怯むだろう。
しかし、流石は狂戦士。一切怯むことはなく、むしろその表情には笑みすら浮かんでいた。
窮地すら楽しんでいる様子は人でありながら人ならざる者を彷彿させ、背筋にぞくりと悪寒が走る。
ウェンティがライアーを奏でる手を止めることはない。
絶え間なく真空刃はタルタリヤに降り注ぎ、切り裂かれた肉体からは赤い体液が噴出している。
だが、それでもタルタリヤから笑みは消えなかった。
薄く唇を開き口角を持ち上げた男の見開かれた目は瞳孔が開ききっていて、正気でないことは確かだ。
恐れを抱いたのは、タルタリヤを追い込んでいるはずのウェンティだった。
ライアーの音色で風を操りながら、『何故?』が脳内を埋め尽くす。
何故彼はこんなにも恐れを抱かない?
何故彼は己が傷つくことを厭わない?
何故、何故、何故……。
このままでは無形の刃に捉えられてしまう。
そう理解しているのに、真っ直ぐ自分に向かってくる青年の気迫に身体が上手く動かなかった。
(ダメだ、逃げ切れないっ)
タルタリヤは攻撃の初動に入った。おそらく彼の間合いに入ってしまったのだろう。
斬撃を繰り出すだろう腕は下方に下げられている。狙いはおそらく足だ。
そう判断したウェンティは急ぎ唄を紡ぎ弦を弾く。
瞬間生じる突風は少年の身体を持ち上げる程の強さを持ちながら、青年に放ったような攻撃性は無いようだ。
風に身を任せて青年の斬撃を避けるウェンティ。
だが、甘かった。青年の刃は想像よりもずっと攻撃範囲が広かった。
「いっ――――」
腿に走るのは焼ける様な痛み。
元が水とは言え、刃は刃。深く裂けた皮膚からは肉が覗き、それは骨に達するほどの裂傷だった。
肌を守っていた白いタイツは見る見る赤く染まり、足を動かそうものなら頭を鈍器で殴られたような強烈な痛みが走る。
「いいねぇ! 確実に切り落とせたと思ったのに、まだちゃんとくっついてるじゃないか!」
「じょ、冗談言わないでよ。理由もなく人の足を切り落とそうなんて、全然笑えないよ」
「『冗談』? 俺は本気だよ? 神様相手に全力を尽くさないなんて失礼だろ?」
くつくつと笑うタルタリヤ。しかし、やはり目だけは全く笑っていない。
「なんで足なの? 『本気』なら、腕を狙うものじゃない?」
ウェンティはライアーを奏でて真空刃を創造していると気づいているはずだ。それならば、まずはそれを封じるよう画策するのが『戦術』ではないだろうか?
走ることはもちろん、立つことも儘ならない程酷い傷だ。片足はもう使い物にならない。
普通ならこれ以上戦えないだろうと判断されるべき状態だ。
しかしタルタリヤは痛みに顔を歪める少年の問いかけにきょとんとした表情を見せた。
ウェンティの問いかけが理解できないのか、不思議そうなその顔はまるで無垢な少年のようだった。
「だって腕を落としたら戦えないだろう?」
なるほど。ライアーを奏でさせるために敢えて足を狙ったのか。
さも当然のように質問を返してくるタルタリヤに、まだ終わりではないと宣告されたウェンティが覚えるのは絶望に似た焦りだ。