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自力では立っているのもやっとの状態だった。だが、タルタリヤは戦いを続けると言い切った。
ウェンティは壁に上体を預けるようにもたれかかり、「勘弁してよ……」と力なく笑った。
足にできた傷からは血が流れ続けている。額に滲むのは脂汗。指先が冷えてゆく感覚に、このまま気を失えたらいいのにと己の意識がはっきりしていることを恨んだ。
笑みを絶やさないタルタリヤは、「休憩は済んだかな?」と楽し気に尋ねてくる。彼の手にはしっかりと無形の刃が握られていて、『決着』がつくまで―――いや、彼が納得するまで戦いは終わらないのだと悟った。
ウェンティは「もうちょっと」と唇を震わせながらも言葉を返せば、あと10秒だけ待とうと朗らかな声が聞こえた。まるで子どもがかくれんぼを楽しむ様な素振りだったが、性質の悪さは段違いだ。
「一つ」
高々にカウントを始めるタルタリヤ。ウェンティはか細くなる息を繰り返し、勝機を探る。
幸か不幸か、周囲に他者の気配はない。頑丈な石壁と、少し離れたところに家屋が数軒。これなら風を呼んでも被害は最小限に抑えられるかもしれない。ならば、自身が持てる力を最大限に発揮すれば、目の前にいる冷静さを失った青年から逃げ切ることは可能だろうか?
痛みのおかげか集中力は格段に上がって僅かな時間で考えを巡らせるウェンティ。
だが、どうしても逃げ切れるビジョンが描けない。
タルタリヤはたとえ全身を風に切り刻まれようとも真っ直ぐ自分を討つため向かってくるだろう。並みの戦士であれば風に乗って逃げ切れるかもしれないが、彼の執念はウェンティの想像を超えているのだ。
(モラクス、怒るかなぁ……)
唇を噛みしめたウェンティは何かを決意したようだ。そして、己の決意に心の中で恋人に『ごめん』と謝った。
「八つ」
獲物を逃がさない狩人のカウントは後2つで終わる。
ウェンティはライアーを持つ手に力を込めた。ライアーが弾けなくなれば吟遊詩人は廃業だな。そんなことを考えて。
タルタリヤは納得するまで戦いを止めない。
ならば、この場を治めるには彼に『納得』してもらうしかない。
だがウェンティには彼を諫める力はない。仮に力があったとしても、街への損害は甚大なものになるだろう。
そうなれば残る選択肢は一つだけ。腕を一本犠牲にして、彼にこの不毛な戦いを『納得』してもらう。幸いなことにタルタリヤはライアーを奏でられなくなれば戦えないと思っているから。
自分で決めたことだが、後のことを考えると恐ろしい。腕を失うことはもちろんだが、それ以上に、何よりもこの青年の命が心配だ。
事が収まればなんとか彼を言いくるめて早急に璃月から離れてもらわないと。
ウェンティは風の力を借りて立ち上がると、自分の思惑が悟られないよう細心の注意を払って最後のカウントを終えた青年に対峙した。
「十。……もういいかい?」
「もういいよ」
嗚呼。これがかくれんぼなら、楽しめるのに。
ライアーの弦に触れる指。タルタリヤは、もう間合いに入っていた。
タルタリヤはやはり腕を外して刃を振るってくる。
上手く立ち回らなければ、腕を撥ねる前に彼は攻撃の軌道を変えてしまうだろう。
失敗すればするほど攻撃を受け、肉体は消耗する。腕を失う前に命を落とすことだけは絶対に避けたいウェンティは、三撃の間に決着をつけると己に誓った。
一撃目は失敗。水の刃は上腕を掠めたものの僅かな裂傷がついただけで脇腹を抉る。一瞬痛みのあまり意識が遠退いたが、すぐに正気に戻された。
続けて繰り出される二撃目は崩れた体勢を立て直せず背中に焼ける様な痛みが走った。
「しっかりしてくれよ、風神様」
ライアーの音色が聞こえないと不満の声を漏らすタルタリヤ。いつの間にか蹲っていたと気づいたのは、腹を蹴り上げられた時だった。