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衝撃に一瞬息が止まったが、次の瞬間には盛大に吐血しそのまま地面に蹲るウェンティ。
「こ、子供相手に、酷いじゃない……」
息も切れ切れに悪態を吐いてみたが、直前の一撃が効いたのか再び盛大に吐血する。口内に残る血のせいか咽るように何度も咳き込めば、鉄の風味が口いっぱいに広がった。
いつの間にかライアーを無くした手は大地で握りしめられ、霞む視界を瞬かせれば目の前が白んでいることに気が付いた。遠くなる意識はかろうじてとどまっているようなものなのか、自分の所在が分からなくなる。
「あれ? なんだ。もう限界?」
つまらなさそうな声が頭上から聞こえる。先程までクリアだった音は何かに阻まれるように反響し、よく聞き取れない。
「つまらないな。もう少し頑張るかと思ったのに」
「うぐっ」
朧げな視界の先に、青年らしき輪郭が見える。どうやら髪を鷲掴んで無理矢理顔を上げさせられたようだ。
「おーい。風神様、聞こえてる?」
「っ――」
反応など返せるわけがない。既にウェンティの意識は失われつつあるのだから。
「あーあ。ダメかぁ。久しぶりに楽しかったのに、残念だ」
緑髪を掴んでいた手を離し落胆の息を吐くタルタリヤ。やはり最弱は最弱か。と。
意識を失ったウェンティの傍らにしゃがみ込んだまま空を見上げれば、腹立たしい程澄み渡る青が視界を覆い尽くした。
故郷では滅多に見ることのない青天の空をどれぐらいの時間眺めていただろう。ほんの一瞬か、それとも、数刻か。昂っていた精神が徐々に落ち着きを取り戻し、傷つき横たわる少年に再び視線を戻したタルタリヤは彼の体躯を担ぐように抱き上げ、肉体の治療のため医師の元へと歩き出した。
するとその時、全く人通りのない路地裏に、一人の男が立っていた。
「! 鍾離せんせ―――」
相手を認識しその名を口にするタルタリヤ。だがその名は最後まで紡がれなかった。
一体何が起こったのだろう。
そんなことを考えるよりも先に視界は巡り、全身に言葉では言い表せないほどの痛みが走った。まるで全身の骨を砕かれたような衝撃と痛みに頭をもたげ、指先まで力が籠る。これは何とかして痛みを逃がしたい本能の動きだろう。だが、痛みは体の中で渦巻いたまま。更には顔面に何かがぶつかり、喉奥からは絞り出すような呻き声が漏れた。
(な、何が、おこ、た……)
全身を蝕む痛みに耐えながらも真っ白になった頭を必死に働かせる。本能は立ち上がれと叫び、それに従うように指先の感覚を確かめるように大地を握り、起き上がるタルタリヤ。身を裂くような痛みに奥歯を噛みしめるも嗚咽のような情けない声が漏れ、更に強く噛みしめれば口角から鮮血が滴ってきた。
ふらつく足取りで何とか踏ん張り立ち上がれば、先程まで自分が担いでいた少年の姿が見当たらなかった。ただ誰かが―――鍾離が蹲っている事は認識できた。
「は、はは……、すごいっ、すごいよ、せんせー」
先の衝撃の原因が何か理解できた。おかげで落ち着いたはずの昂ぶりがぶり返す。
興奮が作用したのか、不思議と全身の痛みはマシになった。だが、痛みはマシになったとはいえ受け身一つとれず先の衝撃で負ったダメージは大きく、真っ直ぐ歩くつもりが足取りがおぼつかない。
ふらつきながらも鍾離の元へと歩みよれば、彼の腕の中に血の気のない顔でぐったりしているウェンティの姿があった。
「ごめんね、せんせー。ちょっと遊ぶだけのつもりだったんだけど、つい力が入って―――、ぐっ」
「誰が喋って良いと言った」
タルタリヤは恋人を傷つけてしまったことを詫びたつもりなのだろうが、その態度が不味かった。罪悪の意識などまるでない謝罪に意味などあるわけがないのだ。
へらへらと言葉だけの謝罪は鍾離の怒りを買い、大きな手は耳障りな音を止めるようにタルタリヤの喉元を締め上げた。
潰れたカエルのような嗚咽を漏らすタルタリヤは両手両足が動く自身の状況に己の足が地面から離れていることに気が付いた。