あなたは18歳以上ですか?
18歳未満の方の閲覧を固くお断りいたします。
―――― 0日目
「『あの件』って何?」
「気にするな」
「はぁ? そんなの無理に決まってるでしょ!? いったい何の話か今すぐ教えてよ!!」
タルタリヤが去った後、鍾離は自分に詰め寄って来る恋人にたじろいだ。
ウェンティの怒りの形相に対してもそうだが、先のタルタリヤの言葉から『契約』が既に開始されていると言うのも大きな要因だった。
恋人への―――番への想いを断ち切らせるために申し込んだ手合わせ。負けるつもりは一切なかったため、万が一彼が勝った場合に自分に科される誓約については何も訂正を入れなかった。
まさかそれがこんな結果になるとは露とも思わなかった。
鍾離はあの時タルタリヤが出した交換条件に素直に応じたことを後悔した。愛おしい番に今からひと月触れることができないなんて、この世の終わりかもしれないとすら思えた。
「モラクス! ちょっと! 聞いてるの!?」
また一歩にじり寄って来るウェンティは恋人と青年が交わした『契約』の内容を教えろと睨んでくる。
どんなバカな内容の『契約』を交わしたんだと怒るのは、鍾離を心配してのことだろう。
だが、そんな恋人に鍾離は言葉に詰まりながらも少し離れてくれと訴えた。
その訴えの理由が分からないウェンティは当然更に怒りだすというものだ。
更ににじり寄って来る恋人に鍾離は頼むと頭を抱えた。
これ以上近付かれれば、この愛おしい存在は自分のモノだと印をつけなければと暴れる本能を抑えられない。と。
鍾離のうわ言のような呟きに全く状況が理解できないウェンティは眉を顰めるも、恋人が相当参っている事は理解できたのだろう。
仕方ないから数歩後ろに下がってやった。
無言で自分を見つめてくるウェンティの眼差しには怒りの他に不安が宿っている。
おそらくそれは何が起こっているか分からないことへの恐怖だろう。
鍾離はそんな恋人を前に、危機感を覚えた。何故ながら、手合わせに負けたせいで自分の番は他者の欲に狙われたままだからだ。
そこら辺の凡人が相手ならこんなに気に掛けることは無いのだが、タルタリヤの実力を評価しているからこそ、恐ろしかった。彼には番を力づくで手籠めにするだけの実力があるのだから。
そんなことは絶対にしないと青年は言っていたが、果たしてそれが永劫続く誓いかは定かではない。
むしろ、こんな愛らしい存在の傍にいて欲を抑え付けておくことなどできるわけがないと思うから、いずれ鍾離が想像する『最悪』が訪れるかもしれない。
もしそんなことが起ころうものなら、自分は正気を保つことはできないだろうと鍾離は思う。スネージナヤと全面戦争になっても構わないと、要人である彼をありとあらゆる手段を用いて痛めつけ、断罪し、屠るに決まっている。と。
そしてそんな未来が来ることがないようにと挑んだはずが、なんて様だ。
(公子殿の想いが真のものだと分かったせいで己を見失った俺の失態だと言うことは分かっているが……)
何も知らなかったとはいえタルタリヤの追い風になる条件を出した番の危機感の無さにはため息が漏れてしまう。
顔を見て溜め息を吐かれたウェンティの眉間に深い皺が刻まれたのは、まぁ当然の流れだろう。
「ああそう。そんなに言いたくないんだ? なら、いいよ。公子君に聞くから」
「! 待て! 何処に行く気だ!?」
踵を返す恋人に思わず手が伸びる。だが、寸でのところで思い出した『契約』にそれを引っ込めれば、ウェンティの顔は怒りではなく悲愴に変わった。