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瀕死の重傷を負った青年は数週間後に璃月での仕事を終えたという挨拶と共にこの地を去った。
まさか傷が塞がった次の日から忙しなく動き回るとは思っていなかったウェンティは、きっと喉元過ぎたころにまた『遊び』に来るだろうと未来予想していたのだが、青年は存外律儀に『契約』を守って大人しくしていた。いや、大人しく、という表現は些か語弊がある。彼は何故か暇を見つけてはウェンティを訪ねてきていたのだから。
勿論訪問の目的は『遊ぶ』ためではなかったが、事ある毎に酒や果実を土産に顔を出されては落ち着けないというものだ。出港する直前なんて、『次はモンドを案内してよ』なんて言いながら肩を抱いて戯れとばかりにこめかみにキスを落としてきたのだから。
最近の若者らしい軽いノリだと思いながら『はいはい。気を付けて帰ってね』とあしらったウェンティ。青年の行動は自身の隣に立つ鍾離を煽るためのものだと理解しているから、呆れてしまうのだ。何度も無謀と勇敢は全然違うと注意していたのに。と。幸いにも鍾離は青年の挑発に乗ることはなかったが、抑えきれない怒りを全身に纏われては失笑するしかないというものだ。
挑発よろしくとばかりに満面の笑みで璃月を発った青年を見送ったのは、つい先程のこと。ウェンティは前を歩く鍾離の背を眺めながら、彼を纏う風が先程よりも荒れ狂っていることに肩を落とした。折角だから昼食がてら港で海な幸を楽しもうと話していたのに、『何を食べよう?』なんて聞ける雰囲気ではないから。
(結構楽しみにしてたのにぃ)
度々『遊び』に来た青年のせいで、ここのところ二人きりで過ごす暇がなかった。だから今日は本当に久しぶりに二人きりの時間が持てるはずだったのに、なんということか。
楽しみを阻害されたウェンティは、やっぱり助けるんじゃなかった! と青年を救ったことを後悔する。もちろんこれは冗談だが、過去の経験上怒っている鍾離の傍は身が竦むほど怖いからこの程度の悪態は許してもらいたい。
程なくして港町を抜けてしまう。馴染みのある街並みを視線を下げてとぼとぼと歩いていれば、ドンっと何かにぶつかった。
前を見て歩いていなかったウェンティはぶつかった額を抑えながらも「ごめんなさい」っと自身の非を詫びた。感触からしてぶつかったのは人だと思ったから。
確かにぶつかったのは人だったが、見知らぬ他人、ではなく、ウェンティの目の前に居たのは前を歩いていたはずの鍾離だった。
鍾離が纏う風は相変わらず怒気を帯びている。だが、表情は怒りというよりも神妙と言った方がいい気がする。眉を顰め唇を硬く結んでいるものの、眼差しは何処か頼りない。
こういう顔をしている時、決まって鍾離は何か言いたいことがあるのに言えなくてこんな表情をして見せる。
ウェンティは「どうかしたの?」と心配そうに小首を傾げて見せる。先程の―――青年の戯れに腹を立てていたわけじゃないの? と尋ねるように。
「っ――――、っ」
「? もら―――鍾離先生?」
何かを伝えようとして口を開くも、言葉は出てこず。気まずそうに口を噤む鍾離に訳が分からないウェンティはその頬に触れるため手を伸ばした。すると、伸ばした手は鍾離の手に掴まれ、彼はそのまま踵を返して歩き出した。勿論、何も言わず。
ただ単に機嫌が悪いと思っていたが、違うかもしれない。だが鍾離が何を考えているのか見当もつかないウェンティはとりあえず彼が納得するよう付き合うかと腕を引かれるまま彼の後を追うように歩いた。
見慣れた街並みを通り過ぎれば、辿り着いたのは二人が暮らす家の前。結局二人で食事をする約束は果たされず帰ってきてしまったようだ。本音を言えば残念でならないが、いつもと違う鍾離の様子も気になるから食事は次の楽しみに取っておこう。
玄関の戸を開け、室内に足を踏み入れる鍾離。ウェンティも遅れてそれに続いてドアを後ろ手に閉めた。
鍾離は部屋に入らず立ち止まったまま。ウェンティは繋がれたままの手をくいっと後ろに引いた。こっちを向いて。と言いたげに。
ウェンティの誘いに鍾離の肩が小さく揺れる。驚いているのかと思えば次の瞬間、目の前に見慣れた端正な顔があった。驚きの言葉が出るよりも先に襲う息苦しさ。訳が分からず暴れ出しそうになった身体は強い力で抱きしめられ、抵抗さえも抑え込まれた。唇を奪われたと気づいたのはそれからしばらく経ってからだった。