大切な相棒を飢え死にさせるわけにはいかない。
改めて気合いを入れなおす空が秘境の前に立ち、攻略に向けて其処に入ろうとしたまさにその時、突如秘境から突風が襲ってきた。
「うっ」
「うわぁぁっ」
左足を引き重心を後ろに落として踏ん張る空の耳に届くのは、パイモンの悲鳴。
目を開けていられないほどの強風に耐え背後を振り返れば、くるくると宙で回転している相棒の姿が遠ざかってゆくのが見えた。
「パイモン!」
慌てて相棒を助けようと身体を動かせば、風に乗った身体は驚くほど速くパイモンに追いつくことができた。
脇に抱えるように小さな身体を掴んだ空は、目の前に迫る樹の幹を両足で捉えると、軽やかな足取りで大地に降り立った。
「パイモン、大丈夫?」
「だ、大丈夫。助かったぞ、旅人ぉ……」
あと少し遅ければ、木に激突していただろう。
びっくりしたとしがみついてくるパイモンの頭をよしよしと撫でるようにあやす空は、「はぁ……」とため息を吐いた。
「止めるにしても、まずは声を掛けてよ」
「へぇ? 旅人?」
呆れたような脱力したような声に、パイモンは戸惑いの表情を見せる。一体何を言ってるのか? と。
だが、その答えは直ぐに空から降ってきた。
「お前、誰に―――」
「ごめんごめん。声が届くよりも先に秘境に入っちゃいそうだったから、ついね」
朗らかな声と共に姿を現すのは緑色のマントを靡かせたモンド一の吟遊詩人、ウェンティだった。
木の上で昼寝でもしたいのか、空からその体躯をふわりと浮かせて地面に降り立つ彼は空とパイモンに「やっほ。元気だった?」と手を振ってみせた。
「ぎ、吟遊野郎? な、なんでお前が璃月に居るんだ??」
先程よりも混乱しているのか、眉を下げて目を瞬かせているパイモン。
状況を呑み込めていないその様子に悪戯好きのウェンティも流石に可哀想になったのか、素直に今自分が璃月にいる理由を話してくれた。まぁ、相変わらずな理由だったが。
「風が吹くまま放浪していたらいつの間にかこんなところにまで来ちゃってたんだ。それで、どうせなら璃月港で美味しいお酒と料理を堪能しようかと思ってたんだけど、ほら、ここには彼がいるでしょ? だから、どうしようかなぁーって」
璃月のお酒と美食はとても魅力的だが、もし彼――旧友に出会ったら何をしているんだと拳骨を貰いそうで悩んでいた。
そう朗らかに笑うウェンティに、空が返すのは苦笑いだ。
モンドで名の知れた吟遊詩人ウェンティが恐れているのは、璃月の往生堂で客卿として籍を置く鍾離と呼ばれる博識な美丈夫のことだ。
普通に考えればまったく接点がないだろう二人は、実はモンドの神――風神バルバトスと、璃月の神――岩神モラクスなのだから『人』に紛れて暮らす神々の暇人さ―――もとい好奇心には恐れ入る。
空は、流石に見かけただけで殴られることは無いんじゃないかと言葉を返すのだが、以前璃月の一大イベント海灯祭で顔を合わせた二人の険悪さを目の当たりにしているから、言葉の信憑性に欠けると自分でも思ってしまう。
(そもそもウェンティが鍾離先生を怒らせなければ良いだけなんだけど、無理だろうなぁ……)
顔を突き合わせるやいなや息をするように鍾離の神経を逆撫でする振る舞いをするウェンティに、きっと今回も璃月港で顔を合わせたらあの寒々とした空気が辺りを満たすんだろうなと遠い目をしてしまう空だった。