「旅人、何か言いたそうだね」
「気のせいだよ。それより、俺達を止めた理由を教えてくれないかな?」
「んんー。流石旅人。良い話の切り返し方だ」
ニコニコと人当たりの良い笑顔を見せるウェンティ。
言いたいことがあるなら言えと追及されなかったことは良いことだが、きっと彼は空の言いたい事などお見通しだったに違いない。
本当に底知れない相手だと改めて思ってしまうのは当然だ。まぁ、ウェンティからは悪意は全く感じないから、本心が見えなくとも信頼に足る人物だと思うのだが。
「止めた理由は簡単だよ。ボクが先に見つけた秘境だから、君達に任せるのは忍びないと思っただけさ」
「そんなルールがあったなんて初耳だけど」
先に見つけた相手が対処しなければならない。なんてルールは今まで一度も聞いたことがない。そもそもこういったことは誰が対処するかが問題ではなく、被害を拡大させないために早急に対応できるかが問題だ。
反論とまではいかなくとも、自分達を止めた理由にはならないと言い返せば、ウェンティが見せるのは苦笑いだ。
「そうだね。確かに旅人の言う通りだ。でも、今回はボクに譲ってくれないかな?」
「どうして? なんでそんなにあの秘境にこだわってるんだよ?」
此処がモンドであれば、まだ理解はできる。たとえ神の座を降りたとしてもウェンティにとってモンドが大切な自国であることは変わりないだろうから、民に危険が及ぶかもしれない秘境を自力で何とかしようとするのも当然だと思うから。
だが、此処は璃月。言うなれば、モンドの神にとっては管轄外だ。
もしかして、悪友――鍾離に恩を売るためだろうか?
そこまで考えた空は、あり得る。と自分の推論に納得した。そして、恩を売りに行ったウェンティが鍾離から笑顔で拳骨を貰うところまで容易に想像できてしまった。
無駄な諍いを好まない空はやっぱり自分が対処した方が良いなと思い、それを伝えようと口を開いたのだが、ウェンティの方が一足早かった。
「ボクはね、ただ気持ちよく璃月でお酒を呑みたいんだよ。だから、お願い」
「それって、鍾離先生にたかりに行くため?」
「うーん。ちょっと違うかな。たかる気なんて全然無いし。ああでも、君から一言口添えしてもらえると嬉しいかな? ボクが璃月でお酒呑んでるところを彼に見つかっても怒られないようにさ」
お願い。と手を合わせてくるウェンティ。
そもそもウェンティが鍾離を挑発しなければ怒られることもないだろうにと思いながらも、璃月で食事を楽しみたいという言葉は本心だと分かるから空は分かったよと苦笑しながらも頷いた。
「なら、任せてもいい?」
「勿論。ありがとう、旅人」
「ああでも、無理はしないようにね?」
「大丈夫。これでも一応、風神って呼ばれてたこともあるんだから!」
「そうだった。忘れてた!」
「酷いなぁ!」
軽口を茶化せば、同じ音で笑われる。
ウェンティとひとしきり笑い合った後、空はいつになく静かなパイモンを振り返り「おまたせ」と相棒に璃月に向かおうと声を掛けた。
「お腹が好き過ぎて限界でしょ?」
「! そ、そんなこと、ないぞっ」
「声に元気がないよ」
パイモンが静かな理由など、お見通し。飢え死にさせることにならずに済んでよかったと空はウェンティに面倒事を任せて相棒のエネルギー補給のため璃月港へ急ぐのだった。