璃月港に着くや否や空とパイモンは寄り道することなく万民堂に足を向け、空腹を満たすべく二人分以上の料理を注文した。
続々と運ばれてくる美味しそうな料理の数々に舌鼓を打ち、パイモンに至っては生き返ると涙目になっている。
空はそんな相棒に笑いながらも、ちらりと陽が傾き茜色に染まる景色に青空が似合う友人の姿を思い出す。
任せろと言ったウェンティの実力を疑うわけではない。七神の一人であるその力は彼自身が語るよりもずっと強大だと知っているからだ。
だが、それでも身を案じてしまうのは、彼が大切な友人だからだ。
「旅人、手が止まってるぞ」
「ああ、ごめんごめん」
美味しい料理は冷めないうちに食べないとね。
そう取り繕うように笑う空だが、パイモンが声を掛けたの理由はそこではなかったようだ。
「急いで腹ごしらえして、戻らないとだろ?」
「! そうだね。急いで食べて、戻ろう」
「おう! あ、でもちゃんと味わうんだぞ!?」
美味しい料理を味わわずに掻き込むなんて、料理を作ってくれた人に失礼だ!
パイモンの主張に異論はない。空はそうだねと頷き、味わいながら急いで食事をとってからウェンティを手伝いに行こうと笑った。
「でもまぁウェンティだし、手伝いは必要ないかもしれないけど」
「確かにな! なんたって吟遊野郎は―――」
「何やら楽しそうな話をしているな、旅人。パイモン」
相棒と食事と会話を楽しんでいた二人に掛けられるのは、落ち着いた声色。
その声に驚き振り返れば、予想通りの人物が立っていた。
「しょ、鍾離!」
「久しいな、二人とも。息災で何よりだ」
「あ、ああ。うん。鍾離先生も、元気そうだね」
普段なら喜ばしい再会だ。だが、今はタイミングが良くない。何故なら自分達が話題に出しているのは彼の天敵――もとい、悪友の事なのだから。
いつもと変わらず鍾離が浮かべているのは穏やかな笑み。だが、空とパイモンにはとてもじゃないがそう思えなかった。
きっと、いや、絶対聞こえていたよな……。
そんなことを相棒に目配せして確認し合う二人。すると鍾離からは「どうした?」と声がかかり、彼を纏う穏やかさとは正反対の威圧を感じてしまうから後ろめたさとは怖いものだ。
「あ、いや、その……」
「歯切れが悪いな、パイモン。いつもの饒舌は何処へ置いて来た?」
「ひっ」
彼の表情は笑顔だ。それは間違いない。だが、その目は全く笑っていなかった。
むしろ怒りさえ滲んでいるように感じる琥珀に、怯えるパイモンは頼りになる相棒の背に隠れてしまった。
「ぱ、パイモンっ!」
「だ、だって! だって!!」
「何故そんなに怯える? 俺は取って喰おうなんて考えていないぞ?」
偽りの笑顔のまま空いた席に腰を下ろす鍾離。
彼の怒りをひしひしと感じる空は、バレているだろうことを隠しても仕方ないと諦めの境地に達した。