「えっと……、実は俺達、璃月の料理が食べたいなって思ってフォンテーヌの旅を中断して戻って来たんだけど」
「なるほど。二人が此処に居るのは、食事のためか。二人に恋しく思ってもらえるとは俺も鼻が高い」
「うん。それで、その道中で見たことのない秘境を見つけちゃって……」
それを偶々通りかかった鍾離先生の悪友が対処してくれてるんだ!
そう言葉を続ければ説明は完了する。
しかし、喉の奥に言葉がつっかえてしまうのは、鍾離の笑顔の奥にある威圧を感じ取ったからだろう。
空は言葉と呼吸をつっかえさせ、顔を引き引き攣らせる。
「……なるほど、旅人が見たことがない秘境という事は、ここ最近現れたもので間違いないだろう」
「う、うん。そう、だね……」
「そして、それを呑兵衛詩人殿が対処してくれている、という話で間違いないか?」
「うっ」
やっぱり、全部お見通しだったのか。
それは肩を落とし、素直に隠していたことを謝った。きっと気分を害すだろうと思って言えなかった。と言い訳を添えて。
「構わない。……あれとのやりとりを間近で見たことがあれば、その反応は至極真っ当なものだろうからな」
表情が和らぎ、苦笑を浮かべる鍾離。
纏う空気もそれに伴い緩和したため、空も漸く呼吸が楽になった。
背後を振り返れば、まだビクビク震えているパイモンが「だ、大丈夫か?」と様子を尋ねてきた。
「大丈夫だよ」
「よ、よかったぁ……。オイラてっきり、『璃月の大地を踏むとは良い度胸だ!』って吟遊野郎をとっちめに行くかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
「パイモン、それは余計だよ」
「あ」
「ははは、大丈夫だ、旅人。俺は構わない」
気を抜いた途端、失言するとは流石パイモンだ。
相棒に呆れながらも鍾離に向き直る空は、「だから」と会話を続けた。
「今から俺達はウェンティを手伝いに行くから、戻ってきたら鍾離先生に会いに行ってもいいかな?」
折角宅を囲ってくれたのに、今から楽しく談笑して食事をすることはできない。
申し訳ないと思いながらもそう告げれば、鍾離は「問題ない」と笑顔を返してきた。
(良かった。とりあえずあの秘境を何とかして、その後ウェンティが璃月港で楽しんでいる間は俺達が鍾離先生を遠ざけてあげれば大事にはならずに済みそうだ)
我ながら良い打開案だと胸を撫で下ろす空。
しかし、空の言葉に『了承』したはずの鍾離は一向にその場から立ち去ろうとしなくて……。
「しょ、鍾離先生?」
「なんだ、旅人」
「えっと……、さっきも言ったけど、これから俺達、食べ終わったらウェンティのところに行こうと思ってるんだけど……」
卓上の茶器を手に取り、湯飲みにそれを注ぐ彼の動きは実に澱みが無く、美しい所作だ。これが団欒の席なら、花咲く会話もあっただろう。
空は彼の優雅な振る舞いに言葉を選びながら『何故立ち去らないのか?』と凡人らしからぬ『人』に尋ねた。