TREMOLO [ANNEX]

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寒すぎると動けなくなる岩神の話



「ただいまぁ。モラクス、生きてる?」
「勝手に殺してくれるな」
 寝室のドアを開けて中の様子を窺えば、声に返って来たのは恋人の声とベッドからにょきっと生えた1本の腕。
 どうやら抗わずにベッドの中で大人しく暖を取っていたようだと安心するウェンティは外套を脱ぎながら恋人のもとへと足を進めた。
「うんうん。大人しくしてたみたいだね」
「俺の意思ではないがな」
 ベッドに腰を下ろせば、頭まで布団を被っていた恋人が顔を覗かせる。
 いつもの威風堂々とした姿からは想像もできないその様子に、ウェンティは笑いながら琥珀に入りそうな前髪を退かしてやる。
 触れる額に感じるのは温もりで、ホッとする。朝、無理にベッドから出ようとした彼の体温はとてもじゃないが『人』と呼べるものではなかったからだ。
 そのまま髪を梳かすように撫でるウェンティは、「何か身体が温まるもの作って来るね」と恋人のためにスープを用意しようと思い立ち上がる。
 だが、それを止めるかのように腕を掴まれ、引き戻された。
 予想していなかった鍾離の行動にウェンティはよろめき、ぽすっと再びベッドに尻もちをつくように座ってしまう。
 それどころか、バランスを崩しているせいで恋人を背もたれにするように後ろに転がってしまった。
 思い切り恋人に乗り上げるウェンティ。聞こえるのは小さな呻き声で、慌てて彼の無事を確かめるように振り返った。
「もぉ! 危ないじゃない!」
「すまない。だが、お前が離れていくのかと思ったら、手が出ていた」
 引き留めようと思っていたわけじゃない。
 そう弁解する鍾離に、ウェンティはもやっとすると唇を尖らせて見せた。寒さで弱るあまり『傍に居て欲しい』と甘えられたのかと思ったのに、違うのか。と。
「傍に居て欲しいとは思っているが、俺のために食事を用意すると言われれば数刻我慢ぐらいできる」
 いや、できるはずだった。
 そう訂正する鍾離は、はぁ……と深い溜め息を吐くと何処か頼りない表情でウェンティを見つめた。
「食事よりも、お前に暖めてもらいたいと言ったら怒るか?」
「それって―――」
「性交したいと言う意味ではなく、お前を抱きしめていたいと言う意味だ」
 自分の恋人が自分にだけ酷くエッチなことを知っているから疑いの目を向ければ、それを察したのか、苦笑交じりに誓いを立ててくる鍾離。絶対に抱きたいと言い出さないから頼む。と。
 無言で暫し彼を見つめていれば、「ダメか?」と眉が下がる。
 淋しげなその表情に心臓が大きく飛び跳ねた気がして、悶絶するウェンティ。
 恋人からはどうかしたのかと酷く心配されてしまった。
「な、なんでもないよ……。いつもの発作だから」
「いつもの、『発作』? お前、何処か悪いのか?」
「! 違う違う! そういう意味じゃなくて! モラクスが―――」
「俺? 俺がなんだ?」
 勢い余って奇行の理由を説明しようとしたウェンティ。だが、ただただ自分の恋人を見て『淋しそうな顔もカッコいいなぁ』なんてときめいたからとは言い辛いと口を噤む。
 まぁ、心配している鍾離がはぐらかすことを許さず、直ぐに暴露させられるのだが。
「お前という奴は……」
「ごめんってば! でも、仕方ないでしょ? 好きなんだもん!!」
 ある意味不可抗力なんだから怒らないでよ!
 そう訴えるウェンティ。するとあっという間に布団の上から布団の中に連れ込まれて、何が起こったか分からずただただ目を瞬かせてしまう。
「モラクス?」
「抱かないと誓わせておいて誘惑してくれるな」
「『誘惑』って……、もぉ! モラクス、ボクに惑わされ過ぎじゃない?」
 なんだかしょっちゅうそのセリフを聞いている気がする。
 そう笑うウェンティは、これは絶対気のせいじゃないからね! と拗ねた表情をみせる恋人を見上げた。
「愛らしい恋人に惑わされるのは当然だろう? 愛していれば交わりたいと思うのも至極当たり前のことだと思うが?」
「そりゃ、ボクだってモラクスのこと大好きだし、モラクス見てるとエッチしたいなって思う時、あるよ? でも、モラクスはその頻度がボクよりずっと多いからね!」
「俺の記憶違いか? お前に乞われたことは無いと思っているが……」
「言葉に出す前に誰かさんが察してエッチになだれ込んじゃうからね」
「俺のせいだと言うのか?」
「モラクスの『おかげ』って言ってるの!」
 寒さで上手く機能していないのは身体だけではないようだ。思考も何処か子供っぽく感じる。
 不機嫌を露わにしている鍾離にウェンティは抱きつき、「ちゃんと動けるようになったら、エッチしよ?」と誘いの言葉を口にした。
「言ったな? 撤回はさせないぞ?」
「いいよ。でも、『ちゃんと動けるようになってから』だからね?」
「それはまさか、冬が明けるまで堪えろと言っているのか……?」
 尋ねながらも悲壮感を漂わせる鍾離。ウェンティは思わず吹き出してしまう。そんなわけないでしょ! と。
 大好きだから触れたいと言ってくれた恋人に、それは自分も一緒だとちゃんと言葉で伝えてあげよう。
「冬が終わるまでエッチできないとか、そんなの淋しくて死んじゃうよ」
 愛しい人の胸に顔を埋め、いつも通り動けるようになったら、ね? と抱きついた。
「できることなら、今すぐ愛し尽くしてやりたい」
「ダメだよ。今布団から出たら今度こそ動けなくなるよ?」
「なら、布団から出なければ良いだけの話だ」
「! ちょ! モラクス! 約束!!」
 尻を鷲掴んで揉んでくる恋人の腕をぺちぺちと叩き、彼が一番重んじている『契約』を引き合いに出せば、ぴたりと手の動きは止まった。
 だが、まだ尻から手を離さないあたり、どうにも諦めきれないようだ。
「モラクス、我慢」
「まるで犬猫の躾けのようだな」
「嫌なら、手、離して」
 そう言って促せば、渋々尻から離れてゆく手。それはそのまま抱きしめるように背中に回された。
 ウェンティはキスしたらきっとまた同じことの繰り返しだろうと気付かれないよう苦笑いを零し、はやく暖かくなって思い切り鍾離に愛されたいとまだ少し低い彼の身体を温めるように抱きついた。






[終]





2023-12-10 公開



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