TREMOLO [ANNEX]

ゆらゆらぎが運営する同人系個人サイト

あなたは18歳以上ですか?

18歳未満の方の閲覧を固くお断りいたします。

  • Yes
  • No

幸せ家族計画



「鍾離さんは子供が嫌いなのかな?」
 頼まれていた書籍を往生堂の堂主胡桃のもとへと届けに行った鍾離がそれを受け取った上司にかけられた言葉はこれまで他者から何度も尋ねられたものだった。
 突然の問いかけに鍾離は苦笑を浮かべ、その質問の真意を問いただす。
 すると胡桃は受け取った書籍を机の端によけると腕を組み、「だって」と質問した理由を口にした。
「ウェンティさんと番になって随分経ってるんでしょ? 鍾離さんが此処に来る前からの番だったって聞いてるし」
「ああ、そうだな」
「いつも仲がいい二人のことだからもうお子さんが一〇人か二〇人かいそうだなって思ってたのにいないって聞いたから」
 なんで?
 そう疑問をぶつけてくる堂主に遠慮というものは無いのだろうか?
 普通ならば聞き辛いことを良くもまぁこんなに明け透けに聞いてくるものだとある種の感心を抱く鍾離は小さく息を吐き胡桃の質問に応えてやった。
「別に子が嫌いなわけではないが、ただでさえ男体の出産は母体への負荷が酷いと聞いているんだ。それをアレに強いることを一度でも躊躇っているのに一〇回も二〇回も繰り返させるわけがないだろう?」
「えーっとつまり『子どもは欲しいけどウェンティさんに苦しい思いをさせたくない』ってことかな??」
「ああ、その解釈で問題ない」
「はぁー。相変わらずラブラブじゃない!」
「そうだな。堂主殿に心配されることはない程度にはな」
 子がいないことで伴侶との仲を心配されていると理解した鍾離は、子が居ようが居まいが番への―――ウェンティへの愛は変わらないと言い切った。
 その言葉に空笑いを浮かべる胡桃はそうみたいだねと適当に相槌を返してきて、その態度に解せないと思いながらもこれから別所に赴く約束があるため挨拶を交わして部屋を後にした。
 鍾離が立ち去った空間では受け取った書籍を開き、頬杖を付いてそれに目を通している胡桃は馬鹿馬鹿しいと盛大な溜め息を吐いた。
「本当うちの客卿は朴念仁だねぇ。……いや、あれは察しが悪いというべきかな?」
 伴侶が本当に大切だからこその気遣いだということは伝わっている。
 きっと自分に相談してきた相手も――ウェンティもそれを知っているに違いない。
 胡桃は泣きそうな表情で自分に自信が持てないと言っていた友人を思い出すと、気持ちは分かるが悲観する必要など何もないのにと思ってしまう。
 ただ一言、『子供が欲しい』と素直に伝えればいいだけだ。
 それなのに友人はなぜその言葉が伝えられないのだろうか?
「ああでも、鍾離さんも色々拗らせてるしそう単純にもいかないのかな?」
 美しい唄声と共に物語や想いを言葉で伝えている吟遊詩人。
 そんな言葉の伝道師が、たった一人に――己の唯一に心を伝えることができないなんて、悲劇を通り越してもはや喜劇だ。
 胡桃はお互いのことしか考えていないはずなのに想いが強すぎて絡まらっている鍾離とウェンティに苦笑を漏らした。
「まぁでも仕方ない。受けた相談にはちゃーんと乗ってあげないとね」
 だから今度逢ったら『貴方の番も子供を欲しいと思っていたよ』と教えてあげよう。
 そう笑う胡桃は穏やかな日差しが差し込む午後の昼下がりに友人を想いながら仕事に戻るのだった。





2024-03-31 公開



Page Top