その日、鍾離は少し遠方に出向く用事があるからしばらく留守にすると言っていた。
璃月での生活もそれなりに慣れていたため留守を預かることに特に不安はないのだが、いつも必要以上に行先や用件を明言してくる彼らしくない物言いにウェンティは引っかかりを感じていた。
分かったと頷きを返したウェンティは不自然にならぬよう何処に行くのか、何をしに行くのかと探るように詳細を尋ねてみたものの、鍾離からは仕事で北の方に行くとこれまた漠然とした答えが返されてしまった。
歯切れの悪い言葉に疑問を抱いたものの、なにやら神妙な面持ちの恋人を目の当たりにしてはそれ以上の追及はできなかった。まるで『聞いてくれるな』と言いたげだったから。
一瞬、浮気か何かだろうかと男の不貞を疑いかけたが、4日程で戻ると言って抱きしめてきた腕があまりにも名残惜しそうだったため、濡れ衣もいい所だと恋人を疑ったことを反省したものだ。
いつ出発するのかと聞けば明後日と返され、余計な虫が寄ってこないようにと丸2日かけてマーキングされた。心配性だと笑いながらもそれを享受したのは、やはり淋しかったからだろう。離れることはもちろんだが、理由はどうあれ恋人が自分に隠し事をしているのだから当然と言えば当然かもしれない。
散々愛し尽くされ、想いを疑う方が馬鹿馬鹿しいと思いながら迎えた出発の日、珍しく鍾離が何やら探し回っている様子に気付いたウェンティは気だるさの残る身体でベッドを降りた。
寝室のドアを開ければ、出発の準備は既に終えているだろう恋人が戸棚の扉という扉を開けて何かを探している姿が目に飛び込んできた。
「どうしたの?」
「! すまない、起こしたか?」
「平気。ちゃんと『いってらっしゃい』は言おうと思って起きてはいたから」
声をかければ驚いたように振り返る鍾離。よほど探し物に集中していたのだろう。
ウェンティは自分の元に駆け寄ってきて口づけを落としてくる恋人に満足気そうに笑いながら「探し物?」と口づけを返しながらも尋ねた。
まさかこの後大喧嘩することになるとは、この時のウェンティは想像もしていなかった。