「うぅ……やっちゃった……」
「伝えておいて言うのもなんですが、本当にお気になさらずに。義兄は常々お二人へに報いたいと話していましたから」
「でも!」
「それでも気にすると仰るのなら、昨夜のようなことが再び起こらぬようご注意いただければと思います」
「! わ、かった……」
笑顔を向けてくるガイアだが、その目は笑っていなかった。『二度目は放っておくからな』と言う事だろう。
無言の圧を感じ取ったウェンティは空笑いを浮かべてもう一度だけ「ごめんね。ありがとう」と謝罪と感謝を伝えた。
ガイアはそれに笑みを返し、公務に戻ると鍾離に一礼した。
「引き留めて申し訳ない。義兄君には『礼は改めて』と伝えてもらえるかな?」
「承知しました。それでは、失礼します。道中お気をつけて」
「うん。またね、ガイア」
「次はお二人揃ってお越しください」
「うっ……。そのつもり、だよぉ……」
そう何度も釘を刺さなくてもと思わないでもないが、相応のことをした自覚があるため何も言えないウェンティだった。
苦笑いを浮かべて恋人を見上げれば、彼も同じような笑みを浮かべ肩を竦ませて見せる。今後は他者を巻き込むような喧嘩はしないようにしようとお互い思ったに違いない。
二人の様子に満足したのか、ガイアは表情に笑みを称えたまま踵を返し、公務へと戻ってゆく。
鍾離は聡明かつ物怖じしない青年の後姿に、そう言えば璃月七星がモンドに頭の切れる参謀的な騎士がいると言っていたことを思い出す。
「なるほど。彼がそうか」
「? 何が?」
「いや、璃月七星がモンドには政に長けた騎士が居て話し合いが度々思うように進まないと言っていたことを思い出しただけだ」
「! ああ、なるほど。確かにガイアはそういうの得意だからね」
「彼は敵に回ると実に厄介な相手だろうな」
理解できたと笑う鍾離はなんだか楽しそうだ。ウェンティは、璃月の利益を考えれば笑える話ではない気がすると首を傾げてしまう。
すると鍾離はそんなウェンティの頬に手を添え、
「モンドはお前にとって優先すべき国だろう?」
と、自身の番の国が今後も繁栄するだろうことが喜ばしいと笑った。
まったく、隙あらば口説いてくるのは止めてもらいたい。
ウェンティは驚きの表情の後頬を赤くし、「帰るのを先延ばしにしたくなること言わないでよ」と恋人を睨んだ。
これから『人』として璃月港に帰ろうというときに抱きついて甘えたくなることを言わないでもらいたい。そんなウェンティの非難の声に鍾離は笑みを深くし、璃月港まで我慢する気はない事を告げて来る。
甘い雰囲気を持ちながら穏やかな笑み。でも、言葉は妖艶で淫靡さを滲ませる。
鍾離から漂う相反する風に、ウェンティは「だから!」とつい手が出てしまった。
「なんだ。今は乗ってはくれないか」
「当たり前でしょ! ボクは早く『家』に帰りたいの!」
大切な国ではなく自分と暮らす家を『帰る場所』と呼ぶウェンティに、鍾離は改めて愛おしい存在だと思う。
そして、そんな存在に出会うことができたことを、自身が愛することができることを、喜んだ。
「なら、急ぎ帰ろう。俺も早くお前を抱きたい」
「もう! モラクスのエッチ!」
「ウェンティ」
「! あ、しまった!」
くるくると変わる表情も愛おしい。
鍾離はウェンティの肩を抱き、帰りに通る帰離原で旧友にこの愛しい存在を紹介しようと深い笑みを浮かべた。