あなたは18歳以上ですか?
18歳未満の方の閲覧を固くお断りいたします。
夜が深くなるにつれてエンジェルズシェアの賑わいは増してゆく。しかし、人々の仕事の疲れを労いながら楽し気な笑い声を響かせる中、とある一角だけはまるで別空間のように静まり返っていた。
それは眠りこけている吟遊詩人ウェンティと西風騎士団騎兵隊隊長ガイア・ラグヴィンドと同じく西風騎士団遊撃隊測量士ミカ・シュミットが座るテーブルだ。
騒いでいる人々を眺めながらちびりちびりと酒を呑むガイアは、黙って隣に座っている後輩にどうしたものかと表情に出さず考えていた。
後輩が想いを寄せるのは、先程自分が酔い潰したウェンティその人で、今も何やら熱視線らしきものでその眠り姿を眺めている。
『諦めろ』と忠告し、それに拒絶の言葉が返ってきていない以上、改めて注意するのも憚られるため黙って見過ごしているものの、このままでは良くないとは分かっているから困るのだ。
いっそこの吟遊詩人の正体が実は此処モンドで絶対的に信仰されている風神バルバトスだと明かしてやろうかとも思うガイア。
もちろん、これは西風騎士団でも最高機密として扱われている情報だから自分の首を締める事になりかねない判断は下さない。
たとえ相手が同じ団員とはいえ、大団長達からは大目玉を喰らうどころの騒ぎじゃないだろう。
更に、そんなリスクを冒してもミカが恐れ多いと想いを諦める保証も皆無だ。
つまり、ウェンティの正体を明かしても問題は解決しないし、むしろ自分が酷い目に遭って終わりという最悪な結果になりかねない。
穏便に相手の想いを断ち切らせる方法を誰か教えてくれと内心げんなりしているガイアは、この席を立つわけにもいかない状況に辟易してしまう。
「ガイア隊長」
「! なんだ、そんな深刻な顔して」
「ガイア隊長は、ウェンティさんの恋人の事を――、鍾離先生の事をよくご存じなんですよね?」
思い詰めた顔で自分を見据える後輩。ガイアはやっぱり諦めきれないか……と内心肩を落としながらも「まぁそれなりに」と曖昧な答えを返した。
はぐらかそうとしていると気付かれたのか、ミカは眉間に皺を作る。だが、一瞬言葉に詰まったものの直ぐに好敵手の人となりを聞いてくるから、思いの外逞しいと思わざるを得ない。
「それを聞いてお前さんはどうするんだ? 自分の方が相応しいと思ったら、略奪でもする気か?」
「そ、れは……」
「あのな、ミカ。お前さんの気持ちは分からなくはないが、よく考えろ。この吟遊詩人様はモンドでも一、二を争うほどの大酒のみだ。その大酒のみが酔い潰れる程呑んで荒れた原因は何だ?」
「それは―――……それは、鍾離先生との喧嘩とお見受けしています」
諭すような口調ではっきりしている『真実』に誘導するガイア。ミカもそれに気付いたのだろう。眉が下がり覇気が無くなっている。
それでもガイアはミカの口から『真実』に辿り着くまで誘導を止めない。我ながら酷いことをしていると思うものの、彼のためだと良心の痛みを押し退けた。
「そうだ。よくある喧嘩一つで大泣きするぐらい惚れこんでる相手がこいつにはいるってことだ」
「でもウェンティさんは辛い思いをされてるじゃないですか! 『浮気された』とも聞こえましたし、そんな人に―――」
「ミカ! ……あのな、いいか? たとえ相手がどんなに酷い奴だったとしても、当人が『助け』を求めていないなら部外者が首を突っ込むのはタブーだ」
ウェンティを想うあまり視野が狭くなっているのだろう。ガイアは何が悲しくて悪者役に徹しないといけないのかと自分自身を不憫に思った。
それでも途中で放り投げないあたり、やっぱり彼は人が良い。
「だいたい『浮気』もなにも、全部こいつの妄想だからな? 酔っ払いの言葉を一々真剣に受け止めるな」
「で、でも! でも……」
「もし本気で相手が『浮気』してようもんなら、えらいことが起こるぞ」
「? それは、どうしてですか?」
「さぁ? どうしてだろうな?」
未だモンドで信仰されている風神様を掻っ攫っておいて『浮気』だなんだと蔑ろに扱っているとなると、風神愛が行き過ぎている面々が璃月に対して戦争を仕掛けかねない。
きっと相手が璃月の神であった存在だろうが、負け戦だろうが、関係ない。西風騎士団はじめ、モンド中が剣を取りそうだ。
ガイアは笑えない事態が自分の想像の中だけで済むよう祈るばかりだ。