TREMOLO [ANNEX]

ゆらゆらぎが運営する同人系個人サイト

あなたは18歳以上ですか?

18歳未満の方の閲覧を固くお断りいたします。

  • Yes
  • No

酒は飲んでも飲まれるな 間の話



 ちらりと机に突っ伏して眠りこけている当人に視線を向けば、「もらくす……」と小さな声が聞こえた。
 これらはすべてただの痴話喧嘩。ただの彼の勘違い。
 そう分かっているはずなのに、怒りにも似たやるせなさを覚えるのだから自分も随分モンドに染まったものだ。
 ガイアはもう少し人が少なくなったタイミングを見計らって仮眠室にでも運んでやるかと笑みを浮かべた。
「ガイア、彼の様子はどうだい?」
 かけられた声に振り向けば、そこには思った通りの人物が椅子を一脚もって立っていた。
 ガイアは己の椅子を眠るウェンティの方にずらしスペースを作ると、「埒が明かないから潰しといた」と義兄に肩を竦ませて見せた。
「そっちは仕事はもういいのか?」
「ああ。元々今日はチャールズから仕入れの相談がしたいと呼び出されていただけだからね。そもそもカウンターに立つ予定は無かったんだ。僕が居なくとも営業に支障はないさ」
「なるほど。つまり吟遊詩人様に掴まっちまったわけか」
「そう言う事になるな。……で、君の方は何か楽し気な様子だが、大丈夫かい?」
 ガイアの隣に椅子を置いたディルックの視線は、ガイアの正面に座るミカに向く。ミカは何やら考え込むように俯いているため視線には気づいていないようだ。
 なんとなく状況を察しているだろう義兄の問いかけに、ガイアは「どうかな?」と苦笑を漏らす。
「大事な後輩が余計な喧嘩に首を突っ込んで大怪我を負わないかが心配ではあるかな」
「! が、ガイア隊長っ?!」
「なるほど……。ミカ君、だったね? 君は何か大きな誤解しているようだ」
「ご、かい、ですか……?」
 上官とはいえまだとっつきやすいガイアとは違い、周囲からその偉業の数々を称えられ、雲の上の存在だとか高嶺の花だとか囁かれているディルックを前にするとその圧に委縮しているミカ。
 ガイアは後輩の様子を見て、義兄に対してこれなら、ウェンティの恋人の正体を知った時の彼のリアクションはさぞ面白いものだろうと思ってしまったとか。
 義弟の考えていることになど気付いていないディルックは、ミカにはっきりとウェンティを想っても無駄だと伝えた。
 ガイアに続きディルックにまで想いがバレているなんてと驚くミカだが、きっと先のやり取りを見て気付かない者はいないだろうと義兄弟は思う。
「彼にはとても素晴らしい恋人がいる。そして他人が入る隙間が僅かにもないぐらい互いを思い合っている」
「! で、ですが! ですがウェンティさんは泣いてました……。それなのに、どうして鍾離先生は傍に居らっしゃらないのですか? ディルック様がおっしゃる通り本当に素晴らしい方なら、そんなウェンティさんを放っておくわけないですよね?」
 だからそれは喧嘩して家出してきたからであって……。とガイアが説明しようとしたのだが、それを遮るようにディルックが「それなら心配いらない」と息巻く青年に苦笑を漏らした。
「『心配ない』ってどういうことですか?」
「すぐに分かるよ」
 ディルックはそう言って薄く笑みを浮かべると酒場の入口へと視線を向けた。
 視線の先に何かあるのかとディルックの視線の先を追うミカと、『まさか』と半信半疑で同じく入口へと視線を向けるガイア。
 三人の視線が集まったエンジェルズシェアのドアが開いたのは、それから直ぐだった。
「うわ……」
 息を呑んだのはミカで、驚きの余り声が出たのはガイアだった。
 『マジかよ』と空笑いを浮かべるガイアに「粗相のないように」と笑ったディルックは立ち上がると異国の風貌を纏う男性の元へと歩いて行った。



 | 


2023-10-31 公開



Page Top