TREMOLO [ANNEX]

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酒は飲んでも飲まれるな 間の話

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「バルバトス……?」
 鍾離が正気に戻った時、自分の下にはぐったりと横たわるウェンティの姿があった。
 慌てて安否を確認するように呼吸を確かめれば、気を失っているだけだと分かって一先ず安堵する。
 しかし、繋げたままの体躯に目をやれば、自身が残した跡が無残なまでに白い肌を荒していて、まるで獣にでも襲われた後のようだった。
 鍾離は理性を無くした自分が己の欲のままに恋人を抱いたと理解し、眠るウェンティの頬に手を添えて「すまない……」と顔を歪めた。
 愛おしい番から香るのは、蜜を蓄えた花弁のような甘い香りと、己の匂い。他の雄の匂いは綺麗に消えてなくなっていた。
 鍾離はほうっと息を吐き出すと、恋人のナカから楔を抜き去る。その際に生まれる快楽にピクリと眉が動いたが、恋人の惨状を見ると欲が生まれることは無く、むしろ萎えてくれて助かった。
 栓を無くした後孔は、閉じ切ることなくぽっかりと空洞を作り、そこから溢れてくるのは白濁した白い液体。その量には鍾離自身、驚いた。
(これは流石に出し過ぎだ……)
 僅かに膨らんだ番の腹に手を添え軽く圧してみれば、後孔から零れる残骸は更に量を増した。
 番に対する独占欲の暴走の凄まじさをまざまざと見せつけられた鍾離は、凶暴な自分の欲を全て受け止めてくれた愛おしい存在に申し訳なさを覚える。
 閉ざされたままの瞳に唇を寄せれば、うわ言で名前を呼ばれた。
「っ――、バルバトス、俺はお前を――」
 愛を告げる言葉に詰まるのは、言葉にできる程度の想いではないと思ったからだ。
 鍾離は拳を作りそれを力強く握ると、覆いかぶさっていた身体を放すようにベッドを降りた。
 意識もはっきりしていない状態で抱き潰されたウェンティの身体を清めるためタオルを手にして戻ってくると、そのまま自分の跡が色濃く残る体躯を拭ってゆく鍾離。
 改めてボロボロと称しても過言でない状態の姿を確認した鍾離は、起きたらきっと文句を言ってくるだろう姿を想像し、苦笑を浮かべた。
 だが、言い訳の仕様がないと詰られるがまま謝るだろう自分と、そんな自分にひとしきり文句を言い終えて甘えてくるだろう恋人の姿を想像すれば、はやく目を覚まして欲しいと瞳は優しく細められた。
 無体を強いたことなどいくらでも謝るし、昨日の暴言も許されるのであればもう二度と同じ過ちを繰り返さないと誓う。
 だから、謝るために、誓うために、いつものウェンティを抱きしめたいと思うのだ。
「……愛とはなんとも御し難い感情だ」
 思い出すのは、昨日会いに行くはずだった旧友の言葉。なりふりなど構っていられないほどの激情が愛だと言った彼女の言葉は実に的確だ。
 鍾離は今もなお己の中に燻る凶暴な執着が存在に気付いていた。
 番から他の雄の匂いは消えても、それは『これは俺のモノだ』と主張する行為を猶も続けたいと腹の中で蠢いている。
 既に満身創痍と言っても過言でないウェンティの姿に、鍾離はこの欲で何よりも大切な存在を壊してしまわぬよう頭を冷やすかと自嘲を漏らした。
「もら、くす……」
「! すぐに戻る。今はゆっくり休め」
 愛し合った名残は己が残した跡だけとなった体躯をベッドに横たえ毛布を掛けてやれば、呼ばれる名前。
 まるで傍に居てと強請られているようだと愛おしげに笑う鍾離はその髪に口付けを落とし、凶暴な己の欲から番を守るためバスルームへと消えた。






[終]





2023-11-09 公開



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