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鍾離には日々の楽しみがある。
大切な璃月の街並みを歩き、そこに暮らす人々が健やかに生を育んでいる様を見ることもその一つだ。
活気に満ちたその光景を見ると、『神』という重責から退くことを懸念していた自分の狭量さを思い知る。
しかし、悩みながらも出した結論は間違ってはいなかったと笑みを浮かべ街を歩く鍾離。
此処璃月港から見ることのできる夕暮れに目を向ければ、陽が海にいよいよ沈まんとするところだった。
美しい景色だと目を細める鍾離の近くで聞こえる、幼子の声。
それは手を繋いだ両親に見える世界の美しさをたどたどしい言葉で伝えていた。
一生懸命伝えてくる我が子に両親が返すのは微笑ましいと言わんばかりの笑みと慈しむ言葉。
温かみのある家族団欒を横目に通り過ぎる鍾離は、『帰る場所』がいかに大切であるかを実感した。
神であった頃、鍾離には『帰る場所』という概念が希薄だった。いうならば璃月全てが彼にとってはそれにあたるものだったからだ。
そして、先程見た『家族』というものを持っていなかったこともまたそれに拍車をかけたのかもしれない。
天上の存在として璃月を統治していた頃、彼は常に独りだった。
民が育む命の中にある『家族』というものは、自分には関係無いものだとも思っていた。
しかし、今は―――。
(帰る場所があり、家族と呼べる存在が居る。……凡人の暮らしというのは、かくも心が暖かくなるものだ)
神であった当時に後悔は無い。だが、未練もまた無かった。
鍾離が歩く先に在るのは、彼が暮らす『家』だ。
玄関のドアに手を伸ばした彼は、何度味わってもこの扉を開く瞬間が愛おしいと思ってしまう。
「ただいま」
ドアを開け家の中に入った鍾離が口にするのは、他者に帰宅を告げる言葉だ。
彼の声のすぐ後に、家の奥から聞こえる「おかえりー」という声。
空間を仕切るドアに阻まれそれくぐもったような音になっていたが、やがて聞こえる足音と共に、音を阻んだ仕切りが開かれる。
「おかえり、モラクス。今日はちょっと早くない?」
「そうか? いつもと同じぐらいだと思っていたが」
「早いよ。いつもは後25分ぐらい遅いもの」
「それぐらいなら大した差じゃないだろう?」
駆け寄って来るのは元風神バルバトスこと、ウェンティ。鍾離にとってかけがえのない存在だ。
彼は早く帰って来るなら教えといてよと頬を膨らませている。
しかし拗ねた表情を見せながらも抱きついてくるウェンティに鍾離は愛しげに微笑み、30分程度なら誤差だろうと膨らんだ頬を撫でた。
「確かにボク達の感覚的には誤差かもしれないけど、ディナーの準備に関してはそうじゃないの!」
ウェンティは唇を尖らせ、あと20分はかかると眉を下げた。
どうやら夕食の準備が終わっていないことを後ろめたいと感じているようだ。