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岩神として崇められていた魔神モラクスがその正体である鍾離にとって、食事とは凡人に溶け込むための手段の一つでしかない。
『人』は生きるために食事をする。だから鍾離もそれに倣っているだけのこと。
食事をとろうがとるまいが、魔神にはさして影響はないことだ。
そして、それは風の元素精霊であるウェンティも同じだった。
それなのにウェンティは毎日少なくとも1度は食事をとっていて、その殆どが自分で作っていると聞いた時は心底驚いたものだ。人に紛れながらもそういったことは無頓着な性格だと思っていたから。
驚いた鍾離に、ウェンティはらしくないことは自覚していたのだろう。肩を竦ませ擬態するためじゃないと料理する理由を教えてくれた。
人が命を育むための大切な食事。それを作る人は、その大半が食べる相手のことを想い作っている。
だから、作るのだと過去を語ったウェンティ。
命を繋ぐためのモノに食べる相手への想いが要るのかと疑問を抱いていた風の精霊は、かつての友人達が戦いの合間に開かれる些細な宴会の最中に出される彼らを想い作られた料理に感謝をしていた。
料理とは、『命を繋ぐためのモノ』ではなく、『人を育てためのモノ』と知ったのはこの時だ。
友人達は振舞われた料理に感謝し、笑っていた。それはとても楽しげで、食べれないことが悔しいと風の精霊が感じるほどだった。
人の形を手に入れたウェンティはまずライアーを奏で、詩を唄った。そして次に、友人達が笑っていた『食事』をとることにした。
味の良し悪しは分からない。だが、心が温かくなったと感じたウェンティ。
そして長い年月と共にモンドの民を見守りながら、彼らがとる『食事』に憧れを抱いた。大切な人のために『食事』を用意し、その人と笑いながらそれを食べたい。と。
だから、ウェンティは毎日夕飯を用意する。たとえ相手がそれを必要としていなくとも、彼を想いながら『食事』を作りたかったのだ。
そんな恋人の心を知るからこそ、鍾離は申し訳ないと言わんばかりの顔をするウェンティが愛おしいと思う。彼は自分を想うからこそこんな顔をしているのだから。
「なら、後30分ばかり出てこよう。……30分後にまた出迎えてくれるか?」
頬を撫で、機嫌を直してくれと懇願する鍾離。するとウェンティは眉を顰め、膨れっ面を見せてくる。
気遣ったつもりが、何故か怒らせてしまったようだ。
「そういう時は『食事ができるまで待ってる』って言ってくれればいいの!」
「? 同じ意味だろう?」
食事ができるまで待つために、今一度家を出ようとしているのだから。
そう尋ねる鍾離。ウェンティはますます不機嫌な顔をして見せた。
「バルバトス?」
「勝手にすれば? ボクは寂しいけど、モラクスはそうじゃないみたいだし!!」
伸ばした手を振り払い、踵を返してリビングへと戻ってゆくウェンティ。
恋人は怒り心頭だと分かっているのに、頬が緩んでどうしようもない。鍾離はだらしのないほどにやけているだろう己の頬を引き上げるように手で押し上げながらその後ろ姿を追った。
「あれ? 出て行かないの?」
「虐めてくれるな。……俺が悪かったから、機嫌を直してくれ」
ウェンティに遅れてリビングに入れば、キッチンに直行するウェンティは振り返らずにチクリと嫌味を投げてくる。
料理を再開する恋人に鍾離は歩み寄り、その腰に手を回して背中から抱きしめた。
すると手を止めるウェンティ。どうやら『言い訳』を聞いてくれる気はあるようだ。