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「ボクだって本ぐらい読むからね?」
驚き過ぎだと笑うウェンティ。絶句したままの鍾離に再び抱きつくと「嬉しかったんだから」と可愛い言葉を続けた。
随分前に読んだ書物。それは魔神の生体についての調査をまとめたものだった。
其処には魔神の繁殖について書かれており、彼らは己の伴侶の雌雄に関係なく子を成せるという記述があった。
昔と違い、魔神は既に数えられる程度に減っていた。しかし書物は太古の物というには真新しく、おそらく著者の想像も含まれている事だろう。だからこの繁殖についてもそうだろうと思おうとしたウェンティ。
だが、それでも気になり、それとなく同じ魔神である稲妻の神に文を投げて尋ねてみた。すると彼女からは相変わらずの嫌味まがいの言葉と書物に書かれている内容は真だと示す言葉が返された。
それにショックを受けなかったと言えば、嘘になる。だが、きっと自分がショックを受けることを想定していたのか、それともただの本心か、稲妻の神は文の最後に『モラクスから愛想が尽かされそうなんですか? ならば精々子で繋ぎ止めることですね』と添えられていた。
子を何だと思ているのだと憤慨する気持ち半分、もう半分は、『子を成す』事が『モラクスから愛想が尽かされた』となる理由に心が震えた。
あの聡明な恋人が、自身の生体を知らないわけがない。ならば、何故子を成すことができると自分の間違いを訂正してこないのか?
その理由は、とても単純で分かり易いものだ。
鍾離は子を成すことを望んでいない。そしてそれに彼が自分を愛しているという事実をかけ合わせれば、辿り着く答えは一つだけだった。
「心配しなくても、ボクもモラクスさえいればそれでいいよ」
自分も同じ気持ちだと抱き着く腕に力を込めれば、戸惑いながらも優しい抱擁が返された。
「君ってすごく子煩悩になりそうだしね。なんだかんだ言って、ボクの事そっちのけで子どもに夢中になりそうじゃない?」
「それは俺のセリフだ。周囲に無駄に愛想を振り撒く奴が我が子相手になればどうなるか。想像するだけで腸が煮えくり返る」
「自分の子供なのに?」
「自分の子だからだ。俺に似たら、どんな手を使ってもお前をモノにしようとするだろうからな」
だが、お前に似た子なら愛せるかと聞かれれば、それも難しい。お前が俺以外に笑いかける姿はできれば一生見たくない。
そう言って抱きしめる腕に力を込めてくる鍾離。
ウェンティは苦しいと笑いながらも彼により一層強く抱きつき、「安心してよ」と彼の耳元で囁いた。
「モラクスはボクだけのモノだから誰にもあげない」
恥ずかしいけど、これが本心。誰にも―――我が子であろうとも、彼の愛は少しだって分けてあげられない。そんな心の狭い自分が親になどなれるわけがない。
ウェンティはチュッと鍾離の耳朶に口づけ、「愛してる」と普段素面では絶対口にしないだろう想いを紡いだ。
「バルバトスっ」
「だから諦めてボクだけで満足してよね?」
「お前さえいればそれでいいと何度言わせる気だ!?」
絶対に離してやるものかと言わんばかりの力強い抱擁。鍾離の瞳孔は縦に伸び、完全に種族体のそれに変化している。
尖った牙と伸びた舌を口内から覗かせ、こめかみに浮かぶのは鱗模様。
その様は、彼が発情期を迎えた時の姿そのものだ。
ウェンティはその姿に微笑み口角に口づけを落とすと、鍾離の愛を求め、音を奏でた。
「言葉だけだけじゃなくて、モラクスの全部で教えて?」
身体を気遣って堪えてくれている事は分かっている。でも、自分も魔神の端くれだ。『人』のように脆い存在ではない。愛しい相手の想い全てを受け止めたって、数日動けなくなる程度だ。
「だから、ね?」
「っ―――、愛してるっ、バルバトス」
「ボクも。愛してる、モラクス……」
鍾離は溢れんばかりのその愛全てをウェンティに注ぎ、それを受け取ったウェンティは喜び、また同じ愛を伝えるように詩を奏でる。
水音と共にバスルームに響くそれは、まさに愛の旋律さながらだ。