TREMOLO [ANNEX]

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愛すべき君へ



 ボクの『承諾』にモラクスは笑みを深くし、ボクを抱きしめる腕を解いた。
 そしてそのまま片膝を折った彼はボクを見上げ、ボクの左手を手に取った。
「バルバトス。どうか俺の番になってくれないか?」
 二週間前に聞いた求愛の言葉に、ボクは二度目の返事を返す。勿論、一度目とは真逆の『答え』を。
「ボクで良ければ、よろこんで」
 以前読んだ恋愛を題材にした娯楽小説のワンシーンさながらなやり取りにボクは涙目で笑い、尋ねた。もしかしてあの娯楽小説を意識してる? と。
 すると返ってくるのは笑い顔で、立ち上がったモラクスはまたボクを抱きしめ囁いた。
「お前は『雰囲気』も大切だと常々言っていただろう? だから、成功の秘訣かと思い肖った」
 おかげで見事伴侶を――番を手に入れることができた。
 そう言って笑うモラクスに、ボクも思わず声を出して笑ってしまった。
「そんなにボクと『番』になりたかったの?」
「そうでなければ二度も請わない」
「だよね。……でも、どうして? 子供が欲しいわけじゃないんでしょ?」
「子を成すことが共に在ることではないだろう? 共に在った先に子が生まれるものであって、子を成すこと自体を目的にするのは些か本能的だと思わないか?」
 なるほど。確かにそうだ。
 ボクはモラクスの言葉に納得を示す。
 でも、それでもやっぱり気になるのは『番』という『誓約』だ。
 トワリンが言っていた言葉を思い出し、それをそのままモラクスに伝え、『番』とは『リスク』ではないのか? と尋ねた。
 力をボクに預けてくれるのは嬉しいけれど、でもそれはボクが死ねばモラクスも―――。
 その先は考えたくないと首を振るボクに、モラクスが見せるのは慈愛に満ちた笑みだった。
「お前を失えば俺は心を亡くすことになる。だから、亡者となり果てるよりもお前と共に朽ちたいと思っているんだが、この願いを叶えることは困難か?」
「モラクス……。っ、し、しかたないなぁっ! そんなにボクが好きだって言われたら、『ヤダ』って言うのが可哀想になっちゃうよ!」
「つまり、全てを理解した上で『番』になっても良いと―――俺の命を預けても良い。と?」
「そうだよ! モラクスの命は、ボクが大事に大事に守ってあげる!」
 嬉しすぎて気を抜けば泣きそうになっていることなどモラクスにはお見通しだろう。
 でも、それでもボクの虚勢に付き合うように「頼もしいな」って笑ってくれるから、本当、彼の愛には当分勝てそうにない。
「龍族の番はたった一人なんでしょ? なら、精一杯ボクの事大事にしてよね?」
「無論、そのつもりだ。これから俺の全てで愛し尽くしてやるから覚悟しろ?」
 優しい笑みから一転、不敵に笑うモラクスはボクの顎に手を添えてくる。上を向くよう促すその手に従えば、落ちてくるのは傲慢な言葉とは裏腹にとても優しいキスだった。
 啄むようなキスはチュッとリップ音をたてて離れてゆく。いつの間にか閉じていた瞳を開けば、それはそれは嬉しそうなモラクスの顔が目の間にあった。
「そうと決まれば、善は急げだ。早速お前を番にさせてもらおう」
「! わわっ! ちょ、モラクス! どこ行くの?」
「勿論、俺の洞天だ。あそこなら、誰にも邪魔されず過ごせるからな」
 今からじっくり自分が誰の『番』かを教え込むと妖艶に笑うモラクスはボクを抱き上げ、蜜月を楽しもうと囁いた。






[終]





2024-04-25 公開



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