「危ないだろう?」
よろめきもせず受け止めておいて、白々しい。
ウェンティは顔を上げると頬をプクリと膨らませ、無言で『不満』を訴えた。
すると、膨らんだ頬に落ちてくるのは口づけ。
先程彼が神像に贈った『祈り』と同じ唇が優しく触れた後、鍾離が見せるのはなんとも満足気な笑みだった。
「随分早くなったじゃないか」
「ゆっくりしてたら誰かさんが七天神像に悪戯しちゃうからね」
「神像に悪戯を? 不敬な輩が居るものだな」
おどけた物言いには笑ってしまうというものだ。
ウェンティは破顔し、仕方のないじいさんだと抱きついた。鍾離から返ってくるのは、これまたなんとも優しい抱擁だった。
胸いっぱいに息を吸い込めば、愛おしい匂いで満たされ安心する。
「……やはり良いものだな」
「何が?」
「お前が素直に甘えてくることが、だ」
「もー。またその話? しつこい男は嫌われるよ?」
いい加減許してくれてもいいんじゃないだろうか?
苦笑いを浮かべれば、鍾離は同感なのかすまんと同じ笑みを返してきた。
「でもまぁ、君の気持が分からなくもないけど。当時のボクって本当、何をそんなに恥ずかしがっているのかって感じだったしね?」
「だろう?」
「其処は嘘でも否定するところでしょ」
「すまん」
茶化せば笑顔が返ってくる幸せ。
ウェンティは今一度鍾離の胸に顔を埋めると、以前の――恋人になって暫くの自分はなんと勿体ないことをしていたのかと改めて思う。
(ボクが望めばこの安らぎはいつだって手に入れられたのに。全く、初心にもほどがあったよ。本当に)
安心する腕の中、呼ばれた名前に顔を上げれば近付いてくる精悍な顔。
翡翠を伏せてそれを迎えれば、唇に触れるのは柔らかなぬくもりだった。
「……それで、今日は何をしにモンドに来たんだい? 鍾離先生?」
「勿論、恋人と休暇を過ごすためだが?」
「え? 初耳なんだけど?」
「ああ。今言ったからな。……既に予定があるというのなら、それが終わるまで待たせてもらうつもりだ」
「わぁ。君って本当、情熱的だね? ボクの予定が終わらないものだったらどうするのさ?」
「別にどうもしない。お前の傍に居られるのなら、俺はそれでいいと思っているからな」
なるほど。つまり仮に予定があったとしても、ついて来る気満々ということか。
ウェンティは吹き出し笑い、鍾離にしがみついた。予定なんてないから大丈夫だよ。と、言いながら。
「それは良かった。物わかりの良い振りをしてみたが、もしも先約があると言われたら悲しみを神像に癒してもらうところだったからな」
「へぇ。君は『紛い物』で満足できるんだ?」
「出来ないが、仕方あるまい。お前に『契約』を破らせる真似はさせられないからな」
「理解があるのかないのか分からないね?」
「俺もそう思う」
くすくすと笑っていれば、降ってくるのはキスの雨。
ウェンティは鍾離の背に回していた腕を首に移動させると、家に帰ってゆっくりしようと提案した。返ってくるのは、喜んでなる言葉だった。
抱き上げられたウェンティは鍾離の腕の中遠ざかる七天神像を眺め、幸せそうに微笑んでいた。