「…………あ、りがとう」
「どうかされましたか?」
「えっと……、これってディルックから、じゃないよね……?」
先の会話を思い出せば明らかな事を改めて確認すれば、愛すべき民が返すのは苦笑いだ。
きっと聡い彼のことだ、何故自分がこんな狼狽しているか分かっているに違いない。
しかしディルックはそれを指摘することなく、質問の答えだけを簡潔に返す。
流石客商売に従事しているだけのことはあると感心する気遣いだ。
「そうですね。此方はとある方からの依頼の品になりますから」
「だ、よね……」
分かっていたことだから、それ以上の言葉は続かない。
ウェンティは呆然と手にしたワインボトルに視線を落とし、そのラベルに印字された銘柄とシンボルを改めて確認した。
ラベルに印字されている文字に書かれているワインの銘柄は何度か飲んだことがあった。
それは愛しいモンドの民が結婚した時に振舞われたもので、『永遠の愛を誓う』という意味が込められた物だった。
その意味になぞらえラベルには『愛』のシンボルが刻印されており、結婚式のたびに振舞われるそれをロマンティックだと思っていたものだ。
そんなワインが今自分の手にあって、更にそれに施された装飾は純白のリボンと一本のバラ。
これらの意味を知らないと言えればよかったのだが、生きてきた年数のせいか知らない振りはできなかった。
(これって、……これってまさか―――)
「ああそうだ」
「! な、なに?」
「送り主様から貴方宛てのメッセージも預かっていました」
笑顔で差し出されるのは1通の手紙。『Bへ』と書かれたそれに心臓が止まりそうになった。慌てて裏返せば『M』の一文字が。
サプライズの連続に耐え切れなくなったのか、ウェンティはその場にへなへなとしゃがみこんでしまった。
「それでは僕の用件はこれで済みましたので失礼します」
「この状況のボクに対する心配はないわけぇ……」
「他者の恋愛は傍観するに限りますので」
「そーだね! 本当、そーだね!?」
恨めしいと顔を挙げディルックを睨むも、彼はどこ吹く風と今一度恭しく頭を下げ仕事に戻ると踵を返して立ち去ってしまった。
残されたウェンティは己の手にあるワインボトルと手紙に視線を落とし、こみ上げてくる感情を声と共に吐き出した。
「もぉー! なんなのあのじいさん!! なんでこういうことするのかなぁ!?」
信じられない! とんだ辱めを受けた!!
そう叫びながらも信じられない程浮かれてしまっていると気付いたウェンティはごろんと芝生に寝転び、もらった『贈り物』を空に掲げて恋人を恋しく想うのだった。