「鍾離さん、何かいいことあった?」
窓の外から聞こえる街の賑わいを聞きながら仕事に勤しんでいた鍾離にかけられるのは、上司である往生堂堂主胡桃の声。それに顔を挙げれば意味深な笑い顔を向けている彼女と目が合った。
思い当たる節がありながらも鍾離は胡桃の声に何故そんなことを聞くのかと質問を返した。
すると返答ににんまりした胡桃は持っていた書類を脇に放り投げ、好奇心のまま身を乗り出して「質問に質問を返すってことは、何かあったってことだよねぇ?」と追撃してきた。
楽しいことなら是非教えて欲しいと目を輝かせている胡桃に、鍾離は苦笑いを漏らす。聞いても楽しいことではないかもしれないぞ? と。
「えー! ますます怪しい! 鍾離さんがそんな風に言うなんて、私はとーっても知りたいなぁ!!」
胡桃は好奇心を抑えられないと机に飛び乗る勢いだ。
鍾離は忠告はしたぞと苦笑いを濃くし、先ほど『無意識』に微笑んでいただろう理由を口にした。
「実は今日、友人―――、いや、恋人に誕生日の贈り物を渡すよう手配してあるんだ」
「ん? 恋人? 今、『恋人』って言った??」
「ああ。言った」
わくわくと期待に満ちた眼差しを向けていた胡桃の表情が一変し、真顔になる。
そして自分の聞き間違いかと確認してくる彼女に聞き間違いではないことを伝えれば、真顔から今度は大きく目を見開き、耳をつんざくような絶叫が部屋に響いた。
「嘘!? 嘘嘘!? 冗談??」
鍾離さんってそういう冗談云う人だっけ!?
机を飛び越えて詰め寄って来る胡桃に鍾離は更に苦笑を濃くし、冗談は苦手だと先の言葉が真実だと伝えた。
胡桃は動きを止め、俯く。どうかしたのかと鍾離が堂主の体調に気を向ければその肩が小さく震えだし、かと思えばそれは全身に巡り、勢いよく顔を上げた胡桃の顔は興奮が抑えきれない様子だった。
「胡堂主?」
「ちょっと! もぉー!! なになになに!? ちょっと鍾離さん、そこに座って!?」
「いや、座っているが……」
座っているのに何故着席を促されるのか。
堂主には自分が立っているように見えているのだろうかと己の体勢を顧みるがどう見ても椅子に腰を下ろしているようにしか見えない。
正気を疑い視線を堂主に戻せば、いつの間にか椅子を引っ張り出して対面するように腰かける胡桃の姿が目に入った。
「さて、ちょーっとお話ししましょうか!」
「仕事中だが、良いのか?」
「良いの良いの! 今来てるのは急ぎじゃないしね!」
だから気にせず話をしようと身を乗り出してくる胡桃。鍾離は瞳を輝かせている彼女に気圧されながらも、何が聞きたいのかな? と好奇心に応える姿勢を見せてやった。
普段ならこんな風に応じることはないだろう鍾離の対応に、胡桃はますます表情を輝かせて楽しそうに笑う。
「ほうほう! そんなにいい人なんだ?」
「ああ、そうだな」