TREMOLO [ANNEX]

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七天神像と感覚が繋げられる岩神と風神の話



 鍾離の表情に浮かぶのは、それはそれは優しい笑みだった。
 それなりに長い付き合いだが初めて見るその笑い顔に胡桃はにんまりと笑い、恋人にベタ惚れな客卿に「鍾離さんも恋とかするんだねぇ」と感慨深いと深く頷いた。
 堂主の言葉に鍾離は頷き、気が遠くなる程長い片想いだったことを伝えた。
「え? 嘘でしょ? 鍾離さんが『片想い』とか、そんな事ってあるの?」
 ずっと想い続けていた相手と最近漸く恋仲になれたと報告するや否や、胡桃は先程までの笑顔を引っ込め、驚きと疑いの眼差しを向けてきた。
 何故そんな目で見るのかと尋ねれば、引く手数多の男が『片想い』とか信じられないと言われてしまった。
「だって、鍾離さんだよ? 頭良し、顔良し、人望良しの最高級物件だって、自分の事ちゃんとわかってる?」
「随分と評価されていたのだな、俺は」
「だって何処行っても引っ張りだこじゃない! この前は孫娘の婿にって軽策荘のおばあちゃんからラブコール貰ってたし、その前は琉璃亭前で綺麗なお姉さま方に囲まれてたでしょ?」
「むっ……見ていたのなら声をかけてくれればいいものを」
「絶対嫌だよ、そんなの。女の嫉妬は怖いんだからね?」
 老若男女問わずモテモテのモテ男だと言う事は周知の事実。恋人なんて選びたい放題だろうに。
 そう自分に視線を向けてくる少女に鍾離は苦笑いを浮かべ、生憎そういったことに興味が無いものでな、と性格上節操無しには慣れそうにないと机の茶に手を伸ばした。
「節操無しって、そんなこと―――言ってる?」
「ああ。言っているな。心が無くとも恋人という関係を結べる男だと胡堂主に思われていた事には心が痛む」
「わー! 凄い棒読み!! ……でも、そっかぁ。鍾離さん、ずっと好きな人がいたんだ?」
「ああ。そうだ」
「ふむふむ……、なら、いつからその人の事が好きだったの? 出会いは? 告白はどっちからしたのかな!?」
 今なら包み隠さず教えてもらえそうだと察した胡桃は質問攻めにしてくる。
 馴れ初めから告白までの経緯は勿論、鍾離から見て相手はどんな人物かを語って欲しいとせっつかれ、その熱量に今日はもう仕事にならないだろうと掛け時計へと視線を向けた。
「ねぇ! 鍾離さん! 早く教えてよー!」
「随分熱心だな」
「そりゃ当然でしょー! こんな面白―――もとい、おめでたい事はお祝いしないでしょ!」
 往生堂の名に懸けて盛大にお祝いするから是非相手を紹介して欲しいと瞳を輝かせる胡桃。
 鍾離はその申し出を丁重に断った。ウェンティが二人きりの時を除いて今まで通りの関係を望んでいたからだ。
「俺はともかく、相手が嫌がるだろうからな」
「つまり、『恋人優先!』ってことかな?」
「ああ、そうだ」
 だから恋人として紹介することはできないと申し訳ないと笑う鍾離だが、その言葉に失言が含まれていた事に気付かなかった。
 胡桃は、ん? と首を傾げ、『恋人として』という単語に引っかかりを覚えた。
 まるでそれ以外の間柄としては紹介できると言っているように聞こえたし、何なら恋人として『改めて』紹介される人物なのか? と勘が働いた。



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2024-07-17 公開



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