TREMOLO [ANNEX]

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七天神像と感覚が繋がってしまった風神の話



 旅人に秘めた想いを知られてから数日が経った。
 ウェンティは折に触れて思い出す出来事にライアーを奏でる手を止め身悶えていた。
 それは時に人目も憚らず起こり、酒に酔い過ぎておかしくなったのかと度々心配される始末。
 そして羞恥とは不思議なもので、どうやらこれは知られた直後よりも暫く時間を置いてからの方が強く感じてしまうみたいだ。
 流石にこれ以上の醜態は晒せないとモンド城を後にしたのは昨日のことだ。
 思い出しても平静が保てるまで人目につかないところで静かに唄を紡ごうと向かったのは、星拾いの崖だった。
 本当は風龍廃墟に向かおうかとも思ったのだが、旅人に知られてしまった恋心は彼以外誰にも打ち明けたことがない想いだったため却下となった。
 いや、きっと心優しい友人のことだ。自分がどんな奇行を見せても語るまでは何も聞かないでいてくれるに違いない。
 そしてそれを分かっているからこそ頼れないのだ。
 何も言わず自分が奇行を繰り返す様を見て、時折呆れたように言葉を掛けてくるだろう友人は優しい。本当、もう一人の友人とは大違いだ。
 無意識にそこまで考え至った自分にウェンティはごろんと芝生に寝転がり、悶絶する。
 今は彼のことを考えないようにしているのに、どうしてこうなるかな!? と。
「もぉー! 本当、最悪だ!」
 両手で顔覆い隠して左に右に暴れるウェンティは何処からどう見ても不審者だ。此処に親愛なるモンドの民が居なくて本当に良かったと思わざるを得ない。
 自分の不審者っぷりを理解しつつも、全身を掻き毟りたくなるような羞恥には抗えない。
 ぎゃーぎゃーと喚きながらごろごろ若草の上を転がり、ひとしきり暴れた後に襲ってくるのは急激な虚無感だ。
 藍色に染まりつつある空を眺めながら、思い出すのは数日前の出来事。
 いつものように秘めた想いをどうしても留めておくことができず訪れた隣国で、これまたいつものように周囲を気にして彼を模した神像に捧げた『祈り』。
 もう何度も何度も捧げたそれに、慢心が無かったとは言い切れない。
 まさか人に見られるなんて思ってもいなかった。そしてそれがあろうことか旅人だったなんて。
 彼以外の誰かなら、はぐらかすこともできただろう。いや、そもそも璃月の神を信仰してると言えば済んだことだ。
 それが何故よりによって旅人だったのか。自分達の正体を知っている存在に、自分達の関係性を知っている彼に、どうして。
「あー! だめだぁ! もぉ! なんでこんなことになるかなぁ!?」
 沸々とこみ上げてきた羞恥に、再び暴れ出すウェンティ。
 記憶から消すことすら叶わない『嘘でしょ?』と言いたげな二人の表情に、ぴたりと動きを止めたウェンティが吐き出したのは誰に向けた言葉なのだろうか?
「そんなの、分かってるよ……」
 驚いた顔をした旅人とその相棒の姿が、次第に歪み、別人へとすり替わる。
 それはウェンティがずっと恋焦がれる存在で、彼は自分に向けられた『親愛』を越えた『愛情』に目を見開いて自分を凝視する。
 そしてその直後、驚きは見慣れた表情に変化する。
 煩わしさを隠さないその表情は、向けられた『想い』をはっきりと拒絶するものだった。





2024-05-15 公開



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