「旅人たちの助言があったからこそ、今こうしてお前と触れ合うことができているんだ。感謝を伝えるのは当然だろう?」
感じる温もりが愛おしい。
そんなことを言いながら髪に落ちてくる口づけに、ウェンティの羞恥はとうとう限界を迎えた。
「もぉ!! 馬鹿!!」
「? 何故怒る??」
「煩い! 今までそんな素振りこれっぽっちも見せなかったくせに!! なんでいきなりそんな豹変できるわけ!?」
腕の中に大人しく納まっていたウェンティは離せと言わんばかりに暴れ出し、先程よりも強い力で鍾離の胸板をポカポカと叩いて「表情筋死んでるの!?」と、「もう少し段階を踏んでよ!!」と、自分ばかり恥ずかしがっている事に不満を訴えた。
しかし、怒って詰っているのに鍾離は笑うばかりで、これまでのような応戦は見られない。
それがまた恥ずかしくて、でも嬉しくて、「カッコいい顔で笑わないでよ!」や、「ますます好きになっちゃうじゃないか!!」などと悪態にもならない言葉に変化してしまう。
「思っていたよりも俺は好かれているようだな」
「そうだよ!? 悪い!?」
「いいや。良い気分だ。もっと聞かせてくれ」
「! だから!! その顔止めてってば!! イケメン過ぎて直視できないでしょ!?」
喚いて睨んで堪えられなくなって鍾離の胸元にぼふっ顔を埋めるウェンティ。鍾離が笑っている事は、その振動が教えてくれる。
自分はこんなにいっぱいいっぱいになっているのに……と唸り声をあげるウェンティは、逞し過ぎる身体に思い切り抱き着き、『離れてあげないから』と意思表示をするのだった。
「バルバトス、顔をあげろ」
「ヤダっ!!」
「そう言ってくれるな。お前を愛でたいんだ、頼む」
声色がそこはかとなく甘くて耳がぞわぞわする。
ウェンティは猶も鍾離の胸板に額を押し付け顔を挙げてなるものかと抵抗を示すのだが、自分の倍以上の歳月を生きる魔神に勝てるわけなど無かったのだ。
「お前がそうも拒むのなら、このまま風立ちの地に向かうぞ?」
「なんで風立ちの地なのさ……」
「其処にある神像とまだ繋がっているんだろう?」
その問いかけに鍾離が何を言わんとしているか理解したのだろう。ウェンティは「ダメ!」と思わず顔を挙げてしまい、良い笑顔を浮かべた彼と目が合った。
その後は勿論、唇を奪われたわけだが、先程のように唇が触れ合うといったものではなく、口の中に何かが―――鍾離の舌が侵入してきて驚き身が竦んだ。
されるがまま深い口づけを享受するウェンティは、漸く唇が解放された時には息はもう切れ切れとなっていた。
初めて経験すること尽くしで、完全に頭がパンクしたのだろう。鍾離の腕の中でくったりと彼に身を委ねるウェンティは、小さく「ばかぁ……」と涙声をあげることしかできなかった。
「バルバトス」
「なに……?」
「お前が望むならば、他の者達の前では今まで通り振舞うこともできるが、どうしたい?」
身体がふわふわ揺れていると感じるのは、どうやら抱き上げられているからのようだ。
鍾離の肩に頭を預けぼんやりと移動する景色を眺めるウェンティは、「今まで通りがいい」と、他の人の前で恋人モードになられては堪ったもんじゃないと彼の提案に頷きを返した。
返されるのは「分かった」という承諾。
それに、心臓が壊れることは避けられそうだとホッと息を吐くウェンティだったが、続いた言葉にもしかすると判断を誤ったかもしれないと思ってしまった。
何故なら―――。
「お前の願いを聞き入れる代わりに、俺の願いも聞き入れて欲しい」
「モラクスの『願い』って?」
「二人きりの時は、今以上にお前を愛でさせてくれ」
今ですらこんなにドキドキしているのに、どうやらこれから先このドキドキは更に激しく続くことになりそうだったからだ。