「お前を愛している。バルバトス」
聞こえた言葉に弾かれたように顔を挙げれば、頬に触れる他者の温もり。そして、見惚れるぐらい精悍な顔立ちが目の前に迫って来て―――。
「!?」
ふにっと唇に『何か』を押し当てられた。
それが鍾離の唇だということは理解できたのだが、あまりにも突然の出来事過ぎてまるで凍結反応を起こしたかのように固まるウェンティ。
どれぐらいの時間唇が触れ合っていたのかは分からないが、気が付けば再び自分は彼の腕の中にすっぽりと納まっていた。
「……おかしなものだな」
「な、何が?」
「七天神像にはもう数えきれないほど口づけてきたが、それで満たされていると思っていたのは、ただの強がりだったのかと思ってな」
本当はずっとこうして触れたかったようだと自分のことをまるで他人事のように話す鍾離に、ウェンティは身じろぎ、彼を見上げた。
初めて見る、それはそれは幸せそうな微笑みを浮かべた鍾離に、ウェンティは自分がどれほど想われていたかを漸く理解した。
そして、理解するや否や、ボンっと効果音が聞こえそうなほど顔が一瞬で茹で上がった。
「熟れた林檎のようだな」
「ち、ちがっ、これは、これはそのっ、えっと」
「俺の想いが正しく伝わったようで安心した。今度旅人達に会うことがあれば、礼をしなければならないな」
あまりの急展開に目が回りそうになっているウェンティだったが、耳に届いた友達の名前に、何故彼らに礼をする話になるのかと眉が下がった。一体鍾離は彼らに何を言われたのだろう。と。
不安げな視線を注いでいる事に気付かず鍾離に意味を尋ねれば、苦笑交じりに頬をまた撫でられ、そのまま先と同じく口付けられた。
今度は直ぐに離れて行ったが、キスはキスだ。二度目のそれにウェンティは一層顔を赤くする。
「な、なにすっ」
「すまん。お前の不安げな顔を見たら無性に口づけたくなった」
「悪趣味っ!」
「俺もそう思う」
酷いと殴るも、拳に力は入らない。痛くも痒くもないだろう攻撃を受け止めた鍾離は、彼がこれまでずっと勘違いしていたことを告げてきた。
その間、最初から最後まで『祈り』がバレていたことに悶絶しそうになったわけだが、『祈り』は鍾離から始まっていたという新事実が衝撃的過ぎて羞恥は何処かへ飛んで行ってしまった。
「モラクス、からだった、の?」
「今そう言っただろう? 当時の俺は、自由を愛する風を一所に留めておくことなど不可能だと最初から諦めていた。だが、お前を愛おしいと想うあまり、風立ちの地に赴いてはお前を模した神像に愛を伝えていたんだ」
「あ、あ、あ」
「それがある時、お前が璃月の地を訪れているかと思えば、同じことをされてみろ。俺の愛への応えだと思うに決まっているだろう?」
「う、うぅ…」
「まさか何も知らないとは思ってもいなかった俺は、お前の意思を尊重しているつもりで対面していた。だから旅人にそもそもの前提が誤りだと諭された時は目から鱗だった」
しかし、思い返せば合点がいくことも多く、真偽を確かめるべく今日再びモンドを訪れた。
そう丁寧に説明してくれる鍾離だが、ウェンティの頭は既にパンク状態で最後の方は理解できているか正直怪しいレベルだ。