「……落ち着いたか?」
「う、……うん……」
力いっぱい抱きしめられていたおかげで、混乱からは抜け出すことができた。
だがしかし、好きな相手に抱きしめられているこの状況では平静にはどうしたってなれそうにない。
ウェンティは離してと訴えるように鍾離の厚い胸板を押すのだが、残念ながらびくともしなかった。それどころか、一層強く抱きしめられてしまった。
(わ、かんないよ……。どうしてボクの事、こんな風に抱きしめるのか、その理由を教えてよ……)
先程同様抱きしめられているものの、先程のように背中に手を回すことはできない。それは鍾離の心が分からないからだ。
嫌われていると思っていたのに、もしかするとそれは勘違いで、本当は真逆だったのでは?
そんな淡い期待を抱きながらも、期待するなと自分に言い聞かせるウェンティ。
「…………七天神像と感覚が繋がることを知らないはずのお前が、どうしてこの場に留まっていたんだ」
「え?」
「俺はあの時――風立ちの地を守る七天神像の前で今にも此処から逃げだしそうなお前に向けて留まっているよう懇願した」
「! 嘘っ」
「嘘じゃない。……俺が七天神像に口づけた直後、お前は力の制御を誤った。その時だ」
口づけも言葉も全て届いていたから、てっきり七天神像に自らの意識を共有させていたと思っていた。
そう言葉を零す鍾離にウェンティは顔を挙げ、先程自分が体験した不可思議な出来事の数々は妄想ではなかったのかと尋ねてしまう。
願望が強すぎるあまり脳が見せた幻想だと思っていたと言葉を続けるウェンティに、鍾離は目を見開き驚く。
だが彼は直ぐに目じりを下げ微笑み、『願望』だったのかと今一度ぎゅっと抱きしめてきた。先程よりも力は弱かったが、心臓が鷲掴まれているような錯覚は今の方がずっと強かった。
「だって、……言ったでしょ……、ボクは、ずっと君のことが好きだって……」
「ああ、聞いた。だが、喜ばしい言葉は何度でも聞きたいと思うものだろう?」
「…………モラクスばかり、ずるい」
自分の想いは既にぶちまけた。だから、今更バレないようにと取り繕う必要はないだろう。
ウェンティは、この手をどうしていいか分からないと訴えるように鍾離が今自分を抱きしめる『理由』を尋ねた。
「風立ちの地で七天神像に口付けたことは『理由』の説明にはならないか?」
「なるわけないでしょ」
「そうだろうな」
口に出さずとも分かっているだろう? なんて、言わないでもらいたい。いまだにこれは自分の勘違いなのではと思っているぐらいなのだから。
拗ねる言葉を口にすれば、楽しげに笑っている鍾離の声が頭上から聞こえる。
それが腹立たしくて額を彼の胸板にぐりぐりと押し付けてやれば、擽るなという笑い声と共に優しい抱擁が齎された。
これは言葉を焦らされるパターンかと拗ねそうになったウェンティだが、この上ない程優しい声で欲しい言葉が降って来た。