――― ウェンティと同じことをしている。
それが何を示しているか、理解はできた。
思い出すのはつい数日前に目撃した岩神像に『祈り』を捧げる風神の姿。きっと鍾離も同じように風神像に『祈り』を捧げているのだろう。何度も、何度も。
だがしかし、同じことをしていてもウェンティと鍾離では決定的な違いがあった。
それはウェンティは鍾離の想いを知らないが、鍾離はウェンティの想いを知っていると言うことだ。
これをどう伝えて良いのか考えあぐねていた空だったが、こと恋愛に関しては男よりも女の子が積極的だとパイモンが教えてくれた。
「鍾離、あのな、それはお前の独り善がりだぞ」
「何故だ?」
「だってお前は吟遊野郎がお前の気持ちを知っていると思ってるんだろう?」
「そうだが?」
「でも吟遊野郎にはっきり言ったわけじゃないんだろ? それなのにどうして、伝えてもいないお前の気持ちを吟遊野郎が理解してるって思えるんだよ」
確かに風神像への口づけは『想い』を示したものだろうが、その『想い』の真意を知るのは当人だけだ。
そしてまた、鍾離はウェンティを愛おしいと想いながら『祈り』を捧げているのかもしれないが、ウェンティがそれをどう受け取っているかは当人しか分からないことだ。
それを決めつけて想いが伝わっていると判断するのは独り善がり以外何物でもないと指摘するパイモンに、鍾離は驚いたような顔をして見せた。
相棒の言葉に空はうんうんと頷き、そもそもの間違いを鍾離に提示した。
「後、鍾離先生はウェンティも七天神像と感覚が共有できることを知っているって言ってたけど、それ、たぶん鍾離先生しか知らないことだと思うよ」
「! 何?」
「ウェンティ、俺達に『祈り』を見られて顔を真っ青にしてた。……この事は誰にも言わない約束をしたら、安心してた。きっと誰にも知られたくなったんだと思う」
意図したことではないにしろ、秘密を暴いてしまった。それを申し訳ないと思う一方、交わした約束を違えている今の状況はウェンティの幸せのために仕方のないことだと空は自身に言い聞かせた。
「特に鍾離先生には何があっても喋らないって約束して漸く笑ってくれたよ、ウェンティ」
「っ―――、……なぜだ? バルバトスが七天神像と感覚が共有されることを知らないという話が真実なら、何故あいつは俺に口づけを贈るんだ?」
頭を抱える鍾離は、ウェンティからの『祈り』をずっと自分の想いへの『答え』だと思っていたと呟いた。
どうやら先に『祈り』を捧げたのは鍾離だったようだ。
「鍾離先生はどうして風神像に『祈り』を捧げたの?」
「それは――――、それはあいつを愛おしいと想っているからだ」
「うん。そうだよね。でも、それなら風神像に『祈り』を捧げる以外にも本人に伝えるって方法もあるよね?」
でもそれをしなかったのはどうして?
質問を重ね、『真実』へと誘導する空。鍾離は何か気付いたように目を見開き、そしてため息交じりに呟いた。
「アレとの関係を崩したくなかった。……この想いを知ったバルバトスから拒絶されることが、俺は恐ろしかったんだな……」
辿り着いた『真実』に空は笑い、ウェンティも同じ不安を抱いていることを博識ながらも恋愛音痴な元岩神に教えてやった。
「鍾離先生はもうウェンティの気持ちを知ってる。でも、ウェンティは知らないままだよ。……鍾離先生、どうする?」
「その質問への答えは一つしかないだろう?」
促す様に尋ねれば、鍾離は肩を竦ませて見せた。
困ったような笑い顔に、空とパイモンは安心したように顔を見合わせて笑い合い、自分達はこれから再びフォンテーヌに向かうことを告げるとウェンティとの幸せを願っていると暫しの別れを告げたのだった。
→ 七天神像と感覚が繋がってしまった風神の話 へつづく