固唾をのんで鍾離の返答を待っていれば、彼は何故その質問が成されるのか分かっていない様子だ。
だが、それでも真剣さは伝わったのだろう。真意は理解できなくとも答えは与えられたから。
「好かれていると思っているが、何故改めて聞く?」
ウェンティの『祈り』を知っていると言っていた彼からすれば、先の質問の意図が分からないのだろう。
訝し気な様子の鍾離に空は次に質問を投げかけた。
「なら、鍾離先生はウェンティのことをどう思っているの?」
いじらしいまでの想いを『祈り』として受け取っておきながら、あんな態度を取っているのだから決して好感情を持っているとは思わない。
しかしそれでもほんの少しだけでもいいから友人の恋が、想いが届いて欲しいと願ってしまう―――。
この場に居ない友人を想う空は、鍾離の返答次第ではウェンティに恨まれる決断を彼に迫る決意をしていた。だが―――。
「勿論愛している」
「!? えぇ!?」
「あ、愛してる!?」
答えは得られたが、正直まったく想定してなかった言葉が返って来て空もパイモンも絶叫を轟かせてしまう。
二人して口をぱくぱくさせて言葉を失っていれば、「何故そんな驚く?」と更に訝しむ声が掛けられた。
これが驚かずにいられるかと二人は鍾離に詰め寄り、『愛している』とはいったいどういう事なんだと説明を求めた。
「? 『愛している』は、『愛している』だろう? あれを好いている、と言った方が分かりよいか?」
「いや、そうじゃなくて! そうなんだけどそうじゃなくてね!?」
「お前の言う『愛してる』は、『家族』とか『友達』とかそういうやつだろ!?」
凡人初心者の鍾離のことだ、『愛している』という想いに様々な種類が存在している事を知らないのだろう。
そう決めつけるパイモンだが、失礼なと鍾離は苦笑を漏らした。流石にそれらは理解しているぞ。と。
「親愛や友愛も勿論あるが、アレに対しては情愛も含まれているから言葉は間違えていないはずだ」
「じょう……」
「あい……」
告げられた『愛情』に間抜け面を晒す空とパイモン。鍾離は驚き過ぎだろうと苦笑を濃くした。
その笑みに我に返ったのは空が先で、ならどうして!? と男に詰め寄った。
「なんでウェンティにそれを伝えないの!?」
ウェンティの秘めた恋心。それを全て知っていて、かつ鍾離自身もウェンティを『愛している』と言うのなら、どうして知らない振りをするのか。
少なくともウェンティは鍾離の想いを知らないし、知られている事にも気付いていない。
本当にウェンティを『愛している』と言うのなら、何故愛している人に苦しみを強いているのか空には理解できなかった。
「アレも俺の想いは知っているのに改めて言葉にする必要があるのか?」
鍾離の言葉に空は再び絶句する。ウェンティが想いを知っているってどういうこと!? と。
つい数時間前までなら、鍾離の言葉をそのまま信じていただろう。
だが、先程の鍾離の言葉の数々を思い出した空は、『ウェンティが知っている』という認識そのものが誤りであると結論付けた。
「鍾離先生、どうしてウェンティが知ってるって思うの?」
「ああ、アレと同じことを俺がしているからだ」
「どういうこと?」
「つまり、俺も度々モンドを訪れて風神像を愛でている」
事も無げに明かされる真実に空は何度目かの絶句をし、パイモンは鍾離の思い込みに頭を抱えていた。