下肢に伸ばされる手をそのままに顔を上げれば、精悍な顔立ちが目の前に。
琥珀の奥に確かな欲を見たウェンティは、口づけを求めるように翡翠を伏せた。
望むままに唇に落ちてくる口づけ。
触れるだけで離れたそれに瞼を持ち上げれば、鍾離は意地悪な笑みを浮かべていた。
この口づけでは物足りないことなどお見通しだと言わんばかりだ。
「『ヤダ』って言わせる気、無いくせに」
「言うつもりもないだろう?」
想われている自覚は大いにある。
だからこそこんな自信に満ちた言葉を返せるのだ。
鍾離が浮かべる笑みに、ウェンティが返すのは『仕方ないな』と言わんばかりの笑い顔だった。
「我侭な君に、今日はボクが折れてあげる」
「随分な言われようだな。だが、撤回されては困るから今はお前の寛大さに感謝しておこう」
再び口づけを落とす鍾離。
今度も触れるだけではあったが、先程よりも触れ合う時間は長く、恋人の唇の柔らかさを堪能した。
ゆっくりと唇を離せば、小さなリップ音が生まれる。
閉ざしていた琥珀を開けば、口づけの余韻に翡翠を閉ざしたままの愛らしい存在に頬が緩んだ。
こみ上げる愛おしさのまま再び口づけを落とす。
甘美な唇は薄く開き、誘われるがまま舌を絡め口内を可愛がってやる。
愛撫に応えるように甘えてくる舌を丹念に愛しながら鍾離が思い出すのは遠い過去。
口づけ一つで顔を真っ赤にして大騒ぎしていた頃が懐かしい。と。
「何笑ってるのさ?」
「いや、随分慣れたものだと思ってな」
「え? ボク今、バカにされてる?」
「穿った捉え方をしてくれるな」
素直に言葉を受け取れと言う鍾離だが、素直に受け取っても誉め言葉ではないとウェンティは頬を膨らませた。
触れあいに慣れたことを揶揄われれば、当然の反応だ。
機嫌を損ねたとそっぽを向くウェンティ。
直ぐにその頬を擽るように鍾離の手が伸びてくれば、狡いと思ってしまう。
不機嫌が貫けないのは、惚れた弱みだろうか?
「今更キス一つで慌てたりしないよ。何年こうしてると思っているのさ」
「『何年』……。二〇〇〇年は優に超えているとは思うが、詳細な年数は流石に分からないな」
「馬鹿正直に答えてくれてありがとう」
「どういたしまして、と言うべきか?」
「嫌味だよ」
「分かっているから尋ねているんだろう?」
ウェンティは恨めしそうに睨んでいるのに楽しそうな鍾離は分かっている。これが戯れだということを。