楽しげな鍾離を見ることは自身も楽しくなるから好きだ。
しかし今は好きだと思うと同時に腹立たしくも思うウェンティ。
それは恋人としての触れ合いに慣れたことを茶化されたせいだ。
今のように頻繁に逢瀬を重ねていたわけではないが、それでも二〇〇〇年以上もこうやって仲睦まじく過ごしてきた。
だから今更口づけ一つで顔を赤らめるほどの初心さはもう微塵も持ち合わせていない。
いや、口づけだけじゃなく、よほどのことが無い限り恥じらいを覚えることは無いだろう。
何故なら、他者に聞かせられないほど恥ずかしいことを自分はもう数えきれないほど沢山知ってしまっているのだから。
勿論、教えたのは他でもなく今自分の尻を撫で回している男だ。
(本当、モラクスってば意地の悪いじいさんなんだから!)
恋人は初心な方が良いというのなら、最初からあんなことやこんなことを教えてくれなければよかったのに。
そんなことを思いながら恋人を睨み続けていれば、楽しげだった笑みに少し困った表情が混じった。
「どうしてそんな顔、するのさ」
「それは俺の台詞だ。何故機嫌を損ねている?」
これから再び愛し合おうとしているのに睨みつけられていては手が止まる。
そんなことを言いながらも手はちゃっかり尻を撫でているままだが?
信憑性に欠ける言葉にウェンティは精悍な顔に手を伸ばし、全てが完璧な極上の顔のパーツの一つ――鼻を軽く摘まんでやった。
「初心な子が君の好みなんでしょ?」
「何の話だ?」
「口づけ一つで慌てふためく初心な子が好きだと言うなら、最初に言っておいてよ。今更そうだと言われても、遅すぎるよ」
「バルバトス?」
「君が教えてくれることが嬉しくて全部受け入れちゃったじゃないか。そのせいで君の好みから外れたなんて、笑い話にもならないよ」
初心な子が好きだと知っていたのなら、あんなことやこんなことを何度も受け入れたりしなかったのに。
鍾離が与えてくれる全てが嬉しくて愛しくて、応えるように受け入れた過去はもう取り消せない。
知ってしまった後では、知らない振りをすることが難しかった。
「俺の好みはお前だが?」
「ボクが『好み』とか意味が分からないよ」
「何故分からない。昔も今も変わらず愛している俺の想いを疑うのか?」
「其処は疑ってないけど、でも昔のボクの方が良かったんでしょ?」
触れ合いに慣れた自分を揶揄っておいて、『違う』なんて信じられない。
そう言って頬を膨らませ不機嫌を継続させるウェンティ。
鍾離は笑っていたのは確かだが揶揄っていないと否定する。