TREMOLO [ANNEX]

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ずっと二人で…

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「それだけか?」
「それ以上に何があるって言うのさ? もしも浮気を疑ってるって言うのなら、暫く君とは口を聞かないからね?」
 人目がある為、まだ病人の振りを続けなければならない。それでもつい笑みが零れてしまうから、つくづく自分は恋人のことが大好きだと改めて実感する。
 鍾離のヤキモチに上機嫌なウェンティ。病人の振りができない程嬉しそうなその様子に、鍾離は小さく溜め息を吐いた。
「疑っているならお前を研究室に入れると思うか?」
「思ってないよ? もし疑ってるのに許してくれてるなら、覚悟してよね?」
 別れたいって言っても絶対別れてなんてあげないから。
 嬉しそうだった表情から一転して拗ねたような面持ちで釘を刺してくるウェンティ。鍾離が返すのは、満足気な笑みだった。
「なるほど。お前の気持ちは良く分かった」
「わざと怒らせるなんて悪趣味だ」
「それはお互い様だろう? お前も、わざと俺の嫉妬を煽る物言いをよくするじゃないか」
「それは! ……それは、だってモラクスのヤキモチ、嬉しいんだもん……」
 バレているとは思っていたが、わざわざ口に出さなくても良くないだろうか?
 自分がとても稚拙な駆け引きをしている気がして居た堪れない。
 ますます拗ねてしまうウェンティ。だが、髪に触れる何かと、ちゅっと響くリップ音に、拗ねる気持ちよりも焦る気持ちの方が大きくなった。
「も、モラクスっ!」
「心配するな。誰もいないことは確認している」
「そう言ってこの前、何処かの会社の営業さんに見られたじゃないか!」
「ああ。そう言えばそうだったな」
「もう!」
 忘れていた。なんて、絶対嘘だ。
 悪びれるない鍾離にウェンティは怒り呆れるも、上機嫌な恋人の横顔を見れば不思議と笑いがこみ上げてきた。
「本当、君ってバカだよね」
「稀代の天才と持て囃される大学教授をバカと罵れるのは、この世でお前だけだろうな」
「そうだね。勉学的な意味では天才だけどボクの事になるとおバカさんになっちゃうんだから、確かにボクにしか言えないよね?」
 本当、愛され過ぎて困っちゃうな。
 そんな憎まれ口を叩くウェンティだが、その表情に浮かぶのは愛らしい微笑みで、喜んでいる事は明らかだ。
 鍾離は甘えるように自身の肩に頬を摺り寄せてくる恋人に笑みを深くした。
「愛する者の前では誰しも愚者となるものだ」
 そう言葉を紡いだ鍾離はこの世界でただ一人、自分を愚者に貶める存在に再び口づけを贈るのだった。



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2024-01-30 公開



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