TREMOLO [ANNEX]

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ずっと二人で…

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「ん? なんだか噂されてる気がする……」
 リビングでパソコンを開き、メールの確認をしていたウェンティは顔を挙げ、きょろきょろと辺りを見渡した。
 家には自分一人だけなのだから誰かいるわけもないと分かっているのだが、誰かに呼ばれた気がしたのが気味悪い。
「なんだろ……。魈がボクの愚痴でも言ってるのかな……?」
 恋人が自分のせいで助手から怒られているのだろうかと心配していれば、パソコンがメールの受信を知らせてくれる。
 気味悪さを気のせいだと言い聞かせるウェンティは、再びパソコンに向き合うと届いたばかりのメールをクリックしてみた。
 差出人から、彼が楽曲提供をしている音楽会社からだということは直ぐに分かった。だから今日公開された曲に関する内容だろうと想像しながら確認すれば、思っていた通りの内容だった。
(売れ行きは好調、か。よかったよかった。辛炎に曲をかいたのは初めてだったから、実はちょっと心配してたんだよねぇ)
 いつもより売れ行きが悪いという内容でなくて良かったとホント胸をなでおろすウェンティは椅子の背もたれに身体を預け、伸びをする。
「でも結構分からないようにしたつもりだったけど、分かる人には分かっちゃうもんだなぁ」
 天井を眺めながら思い出すのは、恋人の研究室で勉学に励む学生達の姿。彼らの会話から聞こえた『バルバトス』の名には正直驚いた。
 普段の楽曲とは毛色の違う曲になったと思っていたが、自分もまだまだだなと笑みが零れた。
(次はもっとばれないように作りたいなぁ。ああでも次の依頼はバーバラ用のラブソングだったっけ?)
 天井からパソコンに視線を巡らせ予定を確認するウェンティ。
 キーボードの隣に置いたスマホのディスプレイが点灯したのを視界の端に捉え、覗き込めば程なくして『ガイア・ラグヴィンド』の文字と共に着信が入った。
 ぽちっと通話ボタンとスピーカーボタンを押し、「はいはーい」と気の抜けた声を掛ければ、スマホから聞こえるのは笑い声だった。
「随分とご機嫌じゃないか」
「さっき届いたメールが思いの外嬉しかったみたい」
「ああ、もう確認してくれたのか。でも意外だな。売れ行きなんて全く気にしてないかと思っていたが」
「ボク個人のことならそうだけど、ボクの曲を歌ってくれる子が居るんだからそう言うわけにはいかないでしょ?」
「ははは。そりゃそうだ」
 電話の主はウェンティが契約を結んでいる音楽会社の副社長なる人物。
 本来なら雇用主であるガイアに敬意を払うべきなのだろうが、雇用関係を結ぶよりも前から飲み友達であったから畏まることをつい忘れてしまう。
 思い出したように敬語を使えば、止めてくれと困ったような声色が。
「取り繕うなら最初からそうしてくれ」
「あはは。だよねぇ。次は気を付けようと思って、でもつい忘れちゃうんだよね」
「別に俺相手に畏まる必要はないと言っているだろう? 社長相手には、気を付けてもらわないとだが」
「ディルックはそう言うところ厳しいからね」
「そうそう。店ではともかく、仕事ではしっかりしないと俺も大目玉だ」
 今このやりとりを聞かれていれば間違いなく説教だと笑うガイアにウェンティもつられて笑ってしまう。



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2024-07-07 公開



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