「まぁ、そういうわけで社長を交えた話し合いの場ではお互い気を付けようぜ」
「そうだね。ディルックが居る時は、ちゃんと気を付けるよ」
「ああ、そうしてくれ」
「それで、世間話をするためにわざわざ電話してきたわけじゃないよね?」
気心知れた友人とのお喋りは楽しいが、そろそろ本題に入らなければガイアの時間を奪てしまいかねない。
不真面目そうに見えて実は誰よりも真面目な友人のために仕事の話をしようと促した。
おそらく新しい曲の話だろうと思いながら、既にもういくつか依頼を受けている状態だから受けられるか確認しておこうとスケジュール管理アプリを開いた。
(うーん……。新しい依頼を受けるとなると、大学に遊びに行く暇が無くなっちゃいそうだなぁ)
部外者がそもそも遊びに行くなと言われることだろうが、これは自分にとって大切な時間だから譲れない。
作曲も作詞も楽しいから苦ではないのだが、その為に幸せな時間を削るという選択肢はウェンティには無かった。
つまり、新しい曲作りの依頼であれば断ろうと思っていたのだ。
しかしウェンティの予想に反してガイアの口から出たのは新譜の依頼ではなく、社の創立パーティーに参加しないかという誘いだった。
「創立パーティー? アカツキの?」
「ああ。そうだ。横のつながりを作ることも、この業界じゃ大切な事だろう?」
「尤もらしい言い分だけど、本当のところは?」
仕事をするようになって随分経つが、この手の誘いは最初に参加しないことをきっぱりと告げていたウェンティ。
ガイアは勿論、ディルックも『バルバトス』というミステリアスなキャラ設定に丁度いいと言ってこれまで一度も声をかけて来なかったわけだが、何故突然誘ってきたのだろうか。
二人の性格からして、思い付きではないことは分かっている。
そうなれば、何か意図があってのことだということは容易に想像がついた。
訝しむ声を返せば、「実はな」と少し言い辛そうなガイアが理由を説明してくれた。
「この前作ってくれたスネージナヤ社のCMソングがかなり好評でな」
「そうなの? それは良かった」
「それで、スポンサーから是非楽曲を手掛けた『バルバトス』大先生に逢いたいって熱望されてな……」
「えぇ……。それを断るのが、君とディルックの仕事でしょ……」
「そうなんだが、その、かなり強引というか、断っても何度もしつこいぐらいに食い下がってくるというか……」
「それは大変そうだけど、ボクには関係ないよね?」
そもそも『バルバトス』は男か女かも明らかにしていない。
切ないラブソングから、激しいロック調の曲まで幅広く手掛ける正体不明の存在に、世間が関心を以て楽曲がより注目されるようになったミステリアスな人物だ。
それを分かっていながら今此処で正体を明かせと言っているのだろうか?