TREMOLO [ANNEX]

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ずっと二人で…



「それにしても、相変わらず人気者だね。鍾離先生は」
 人目を気にしながら適度な距離を保ちつつ隣を歩くウェンティは、すれ違う学生達の視線を感じてつい唇を尖らせてしまう。
 可愛い女の子達が盗み見ているのは、隣を歩く鍾離。もとより長身なイケメン教授と評判だった彼を目で追ってしまう気持ちは、分からなくはない。
 芸能人顔負けだと言われるその風貌は端正なだけでなく、凛々しくもある。同性なら一度は願ったことがあるだろう理想の男性像と言っても過言でない。
 そんな男とすれ違おうものなら、誰だって視線を奪われてしまうと言うものだ。
 それを理解しながらも、ウェンティがやっぱり面白くないと思うのは、彼の恋人が自分だからだ。
 恋人が隣にいる相手に熱視線を送るな! とできることなら独占欲を振りかざしたい。しかし彼の立場を考えるとそれはしてはいけないと分かっているからただただ耐えるしかない。
 おかげで不機嫌な声色で紡いだ言葉は本人が思う以上に嫌味っぽいくなってしまった。
 可愛くない態度だと内心落ち込むウェンティ。しかし鍾離はそんなウェンティに朗らかな声を響かせ、「妬いてるのか?」と尋ねてくる。
 その声がとても嬉しそうだと思ったのは、ウェンティの願望だろうか?
「妬くに決まってるでしょ。何が悲しくて恋人がモテモテな場面を見なくちゃいけないわけ?」
「俺にはお前だけなのにか? どれほど他者から好意を寄せられようとも全て意味の無いことだと分かっているだろう?」
「それは―――、それは分かってるけど、それとこれとは全然違うの!」
 誰に言い寄られようとも、心は微塵も動かない。何故なら、自分の心には既に生涯愛すると決めた相手が居るのだから。
 そう言った鍾離は口角を持ち上げ笑い、左手の薬指に嵌めた指輪をウェンティに見せつけるように触った。
「俺の心はこれの片割れを嵌めた相手に全て預けてある」
「―――っ」
「いや、心だけじゃないな。俺のすべては彼の人のモノだ。他人が付け入る隙など、僅かも存在しない」
 そう言って自身の左手の薬指に嵌めた指輪に口付けを落とす鍾離。
 彼を盗み見ていた学生達からは小さな悲鳴が聞こえたが、それらの音がはるか遠い場所から発せられたように感じる程己の心臓の音が煩いと思うウェンティ。
「ばかっ……」
「知っている。愛しい者のためならなりふり構ってられない憐れな男だと笑えばいいさ」
「もぉ……、だからぁ……」
 抱きつきたくなる事ばかり言わないでよ。
 そう訴えるように恋人を見上げるウェンティの顔は真っ赤だ。
 照れているのか、それとも恥じらっているのか。いずれにしてもとても愛らしいその姿に、鍾離の笑みは深くなる。
 だが、その笑みは直ぐに消えてしまう。何故なら「あの子可愛くない?」と友人達と話す学生の声が耳に入ったからだ。
 注意を愛しい恋人から周りに向ければ、此方を盗み見ている男子学生の姿がちらほら目に入った。彼らの目には明かな色恋の熱が宿っており、恋人に色目を向ける他者の存在に鍾離も平静を装う事が困難になる。
「ねぇ、どうしたの?」
「何でもない」
「えぇ……そんな怖い顔して『何でもない』はないでしょ……」
 ボク、何かした?
 そう心配そうな表情を見せるウェンティ。彼は自分が他者から欲を向けられることなどあるわけがないと思っているため視線になど気付かないのだろう。



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2023-11-10 公開



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