TREMOLO [ANNEX]

ゆらゆらぎが運営する同人系個人サイト

ずっと二人で…



「あ、ウェンティさん、魈助手からのお説教タイムはもう終わったの?」
 三人の学生はお互いの肩が触れ合うほど近い距離に居たが誰一人それを気にしている様子はなく、本当に仲が良いなと微笑ましくなるウェンティ。
 振り返ったのは左端に座っていた女の子――香菱で、彼女は誰からも好感を得るだろう笑顔を見せてくれる。
 ウェンティは近くの椅子を手に取りそれを三人の近くに置くと「今日はお説教は無かったよ」と悪戯な笑顔を返した。
「お説教される前に逃げただけじゃないんですか?」
「流石行秋、鋭いね」
 にやにやと意地悪な笑みを浮かべて視線を寄こすのは、三人の中で一番喰えない男子生徒の行秋。
 相変わらず可愛くないと思うウェンティだが、ウェンティ自身も恋人以外には喰えない性格で有名だから同族嫌悪と言ったところだろうか。
 香菱と行秋の間に挟まれているのは二人の幼馴染である重雲だ。
 彼は視線を一度ウェンティに向けるも何も言わず、その後魈の方へとそれを移動させる。
 その表情には心配が滲んでいて、そう言えば重雲は研究室の教授よりも助手に憧れを抱いていた事を思い出した。
 正直、何故魈なのだろう? と思ってしまうウェンティ。確かに魈は優秀だが、魈よりも自分の恋人の方がずっとすごいのに。と。
 憧れるならまず自分の研究室の教授だろうと解せない思いで重雲を見ていれば、視線に気付いた重雲からどうかしたのかと尋ねられた。
「別に何でもないよ!」
 人が誰に憧れるかはその人の自由だ。
 自分と考えが違うからと言ってケチを付けるべきじゃないという事は理解しているから、それを口にすることしない。
 ウェンティにとっては鍾離が一番であるという事実は変わらないが、それは重雲にとっても一緒ということだ。
(あ、でもむしろその方がいいのかな? モラクスが凄いってことはボクだけが知ってればいいんだし)
 一周回って全員鍾離の凄さに気が付くなと思ってしまうウェンティ。
 きっとこれを口に出せば、恋は盲目と言いますから。なんて甘雨あたりから苦笑を貰うだろう。
(あーあ。モテる恋人を持つと苦労するよ、本当)
 できることなら誰かとこの苦労を分かち合いたい。でも、それは叶わない。だって恋人程完璧な人は何処を探してもいないだろうから。
 ウェンティがそんなことを考えていれば、何かを察したのだろう行秋から「惚気は勘弁してください」と言われてしまう。
「何が?」
「今、香菱が持ってる少女漫画もびっくりな程ヒロイン顔してましたよ」
「! え!?」
「もー! 行秋また勝手にアタシのマンガ見たの!? ちゃんと借りるって言ってからにしてよ!!」
「見られたくないなら研究室じゃなくて家に持って帰るべきだ。ね? 重雲もそう思うだろう?」
「ぼくを巻き込むな!」
 驚きの声を上げるウェンティをよそに、幼馴染3人組は何やら楽しそうにきゃっきゃとじゃれ始める。
 3人のやり取りを眺めながら自分の頬を引き上げるように手で押し上げるウェンティは、そんなに緩んだ顔をしていたのかとついつい恋人に視線を向けてしまう。
 鍾離は此方を見てはいない。だが、何かの書類に目を通している彼の口角は弧を描いているから、きっとこのやり取りに大して笑っているのだろう。



 | 


2023-11-18 公開



Page Top