TREMOLO [ANNEX]

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ずっと二人で…



 研究室で学生達がそんな話をしているとは露知らず、廊下を歩く二人は人目が無いことを確認するや否やぴったりとくっついて仲睦まじさに拍車をかけていた。
「パスタ、オムライス、ハンバーグ……うーん。洋食って気分だけど、どれも違う気がするぅ」
「いつも即決のお前が珍しいな」
「だってぇ」
 一番食べたいものは食べれないし。
 そんな言葉を続けようとしたウェンティは、真っ昼間の学び舎で言っていい言葉じゃないと理性を働かせ、慌てて口を噤んだ。
(もぅ! 本当、モラクスのバカ!! さっきからずっとエッチな気分になっちゃってるよぉ!!)
 思い出した背徳に満ちたキスの記憶。それを忘れるように首を振るウェンティは、人間の三大欲求恐るべし……と自分の煩悩塗れの脳内は本能だから仕方ないと自分自身に言い訳をした。
 睡眠欲も食欲も、満たすことは簡単。でも、性欲だけは、なかなかに難しかった。だって、大好きな人との触れ合いに満足することなど不可能に近いのだから。
 ずっとこうしてくっついていたいと鍾離の腕に一層強くしがみつくウェンティ。すると恋人は「腹は減ってないのか?」と尋ねてきた。
(鈍感!)
 普段は無駄に聡いくせに、何故肝心な時にはこんなに鈍いのか。
 そんな八つ当たりを覚えてしまうぐらい、自分は今は恋人と触れ合いたいようだ。
 しかしそれをそのまま口に出して伝えられる程ウェンティは恥じらいを捨てては居らず、当たり障りのない言葉ではぐらかすことしかできなかった。
 エレベーターの前まで到着すると、階下に降りるためのボタンを押す鍾離。
 待っている間も煩悩を忘れるために食べ物の名前を口にするウェンティだが、やっぱりどれもこれもピンとこない。今自分を満たすのは食欲ではないのだから当然と言えば当然だが。
「ねぇ、モラクスは食べたいもの、無いの?」
 そう言えば自分ばかり考えている気がする。
 気付いたウェンティが恋人を見上げるように尋ねれば、彼は苦笑交じりに「聞いて来るな」と質問に応えることを拒否してきた。
「えぇ? なんで??」
「お前に呆れられたくない」
「ボクがモラクスに呆れるとか、ありえなくない?」
 逆は多々あれど、ウェンティが鍾離に呆れたことなど一度もない。いつだって彼は完璧だったから。
 それなのに何故そんな発想になるのかと不思議そうなウェンティが目を瞬かせていると、恋人は身を屈め唇をウェンティの耳元に寄せて囁いた。
「俺は、お前が食べたい」
 と。
 極上の低音ボイスは頭に直接響いて腰をくだけさせてしまう。
 かくんと膝を折るウェンティを鍾離は慌て支えると、自分の短慮な言動を謝ってきた。
「も、もぉ……なんでそんな……」
「仕方ないだろう? 愛らしく俺を見つめるお前を目にすれば、どうしたって欲を覚えてしまうんだ」
 研究室で熱を帯びた視線を寄こすなと言っていただろう?
 そう言って自身の欲を弁解する鍾離は到着したエレベーターが無人であることに安堵し、恋人を抱き上げるとそれに乗り込み1階のボタンを押した。



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2024-01-17 公開



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