TREMOLO [ANNEX]

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狂戦士の誤算

11



 タルタリヤが意識を取り戻した時、そこは何度か目にしたことのある空間だった。
 目に映るのは仕事で度々訪れる璃月の天井に酷似しているが、自分は確かあの時神の逆鱗に触れ命を落としたはずだ。ここはおそらく死後の世界だろうとぼんやりと考えを巡らせていれば、天井との間に割り込んでくる緑色が視界に入った。
「良かった目が覚めたみたいだね」
「やぁ……、風神様……、きみがお迎えに来てくれたのかい……?」
 屈託ない笑顔を見せてくる少年の姿をした風神に、タルタリヤは物好きだなと力なく笑った。自分を殺した相手を迎えに来るなんてお人好しを通り越してもはや馬鹿だ。と。
 笑いながらも全身を蝕む痛みに顔を歪め、死んだら痛みから解放されるんじゃないのかとどこぞの信仰に詐欺だと難癖をつけるタルタリヤ。するとそんな彼に風神は呆れ顔を見せ、目覚めてすぐ悪態を吐けるぐらい元気で良かったと言って視界からいなくなってしまう。
 また天井を見上げるタルタリヤは、感じる痛みに己の最期を思い出す。
 恐ろしく強かった岩の魔神。それなりに長い付き合いだが、彼が激高した姿など初めて見た。膨大な経験と知恵が彼をいつも冷静で居させたはずなのに、まさかたった一人のためにあそこまで我を忘れるなんて、想像すらしていなかった。
 それほどまでに岩の魔神にとってあの風神が大切な存在だったのだろう。
 タルタリヤが想うのは、故郷で自分の帰りを待つ大切な家族の笑い顔。もう見ることのできないその笑顔は、タルタリヤにとって何よりも大切であり絶対に守りたい存在だった。もしも、もしも誰かが彼らに危害を加えようものなら、自分は絶対に相手を許さない。地の果てまで追い詰めて、彼らを手に掛けたことを永劫悔やむよう痛めつけ、命を奪うだろう。そう。いかなる理由があろうとも。
(嗚呼……、そうか……、俺は絶対にしてはいけないことをしたのか……)
 岩の魔神に戻るほど鍾離にとって風神―――ウェンティは大切な存在だった。そんな相手を自分は私利私欲のため傷つけ、命を奪った。これはまさに自業自得ということだ。
 取り返しがつかないことをしてしまったと理解したタルタリヤは、一人残された鍾離にどう詫びていいか分からず、探しても探しても謝罪の言葉は見つかることはなかった。愛する人の亡骸を弔う辛さを知りながら自分の短慮な行動が彼にそれをさせてしまったなんて、この命で償えるものではないはずだ。
(今まで数えきれない人にそんな思いをさせてきたはずなのに、な……)
 他者の愛する人を奪ったことはこれが初めてではない。それなのにこれほどまでに罪悪を抱くのは、おそらく自分は鍾離を友人と思っていたからだろう。強者と『手合わせ』したいという己の願望に目が眩み、決して越えてはならない一線を越えてしまった。
 愚かだと自分を詰るタルタリヤ。今更気付いたところでどうしようもないと知りながら、できることなら友人に謝りたいと小さな声を漏らした。
「友人って、鍾離先生のこと?」
「なんだ、まだいたのか風神様。……残念ながら俺は天国には行けないよ」
「『天国』って、え? まさか本気で死んだと思ってたの?」
 ただの軽口だと思って聞き流していたのに。
 そう言って驚きの表情を見せるウェンティは、しっかりしてよ! とタルタリヤの額を叩いて来た。
「痛いなぁ……。死人相手に酷いじゃないか。お迎えならせめて優しく連れて行ってくれよ」
「えぇ……。ちょっと! 鍾離先生! 会話にならないんだけどどうしよう?」
 きっと地獄にはたくさんの強者が居るだろうから、そこで天辺を目指すのも良いかもしれない。
 そんな事を言いながら笑うタルタリヤに困惑したウェンティが助けを求め、此処に居ないはずの名前を呼ぶ。何を言っているのかと少年の混乱具合に声を出して笑えば骨が軋むように痛んだが、何故か止められなかった。予想外の声が聞こえるまでは。
「公子殿は随分と信心深かったようだな」
 聞こえた声は幻聴と呼ぶにはあまりにもハッキリ聞こえ、まるでこの場に声の主―――鍾離がいるかのようだ。
 驚きに目を見開くタルタリヤの視界からウェンティの姿が消え、代わりに此処にいるはずのない男の姿が現れ、呼吸をするのを忘れてしまった。
「しょ、鍾離先生……? え、なんで……?」



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2023-07-26 公開



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