TREMOLO [ANNEX]

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狂戦士の誤算Ⅱ

15



 昔のようにこの状況を楽しむことができればどれほど楽だろうか。
 そんなことを考えながら生き物の気配が消えた荒野の中心に足を進めるタルタリヤ。
 彼は対戦者の姿が目視で確認できる距離まで近づき、その姿が1つでないことに驚いた。
(酷いなぁ。これって勝っても負けても叩き潰す気満々ってことかな、鍾離先生)
 思わず苦笑が漏れるのは、鍾離の隣に見つけた少年の姿のせいだ。きっと彼には秘密にするだろうと思っていたのに、とんだ誤算だった。
 いや、仲睦まじい二人だ。鍾離が戦いに出ると告げれば、恋人が戦うことを懸念していた少年が『何故』を問うのはむしろ自然な事だろう。
 自分の考えが浅かったと反省するタルタリヤは平静を装い、既に此方に気付いている二人に手を振ってみせた。
「お待たせ、鍾離先生。それにウェンティ君もわざわざ来てくれたんだね」
 こんな荒野に足を運ばせてごめんね?
 そう軽口を言いながらも、青年は内心戦わずして引導を渡されるのかと胸が苦しくなった。
 そうか、これが世に言う『失恋』という奴か。
 初めての経験に、色恋にいそしむ連中の気が知れないと癒すことも取り除くこともできない痛みに表情が曇るタルタリヤ。
 するとそんな青年に掛けられるウェンティの言葉は、彼が思っていたモノではなくて―――。
「何が『わざわざ来てくれたんだね』だよ。あんなに『戦うつもりはない』って豪語しておいて、結局そうだったんじゃないか!」
「え?」
「君を信じたボクが馬鹿だったよ。文句の一つも言ってやらないと気が済まないからついて来ただけで、後はもう勝手にすれば?」
 今度はどんなに酷い傷を負おうとも助けないからね。
 そう睨んでくるウェンティが纏うのは怒気で、それ以外の感情は伺えない。
 困惑するタルタリヤがどういうことかと鍾離へと視線を向けると、言いたいことを察したのだろう。彼は小さくため息をつくと「ウェンティ」と恋人の俗名を呼んだ。
「何度も言っているだろう? 公子殿が戦いを申し込んできたのではなく、俺から申し出た、と」
「それは聞いたよ。でもボクは彼に確認したんだ。『鍾離先生を怒らせて戦いを申し込ませるつもりじゃないよね?』って。それに『戦う意思はない』ってはっきり答えたのは彼だ。だから君から戦いを申し込んだにせよ、彼はそれを受けるべきではないんだよ」
 何度も何度も言われなくても分かってる。
 そう言って恋人を睨む少年は相当怒っているようだ。まぁ、結果的に彼を騙すことになったのだから当然と言えば当然かもしれない。
 これはどう応えることが正解なのか。今までこんな経験をしてこなかったタルタリヤには最適解分からない。
 いっそ真実を語るか? と思ったが、その先に待つ結果を回避する為に勝ち目のない戦いに応じたことを思い出す。
 困ったぞと考え込むタルタリヤに、弁解はないのかと突っかかって来るウェンティ。何故そんな風に怒っているのかと答えを見つけるまでの時間稼ぎの質問を投げかければ、友人に裏切られてショックを受けない方がおかしいでしょ!? と睨まれた。
(本当、罪作りすぎるだろ。この風神様は)
 友人になりたいと言っていた自分に『信頼できる相手だと分かれば』と言っていたくせに、既に『友人』として見てくれていたなんて。
 これでは諦めるどころかますます彼に惹かれてしまうではないか。
 困った神様だとウェンティを見つめるタルタリヤの瞳に宿るのは、敬愛を越えた感情。それにウェンティが気付くことはなかったが、その隣の嫉妬深い恋人にはしっかりバレてしまったのは当然だろう。



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2024-03-16 公開



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