「ウェンティ」
「もぉ! だから、君が戦いを申し込んだって言うのは分かってるってば!!」
タルタリヤを睨んでいた恋人の名を呼ぶ鍾離に、呼ばれたウェンティはその真意など知ることなく『何回も言われなくても分かっている』と怒っている。
他の男に向けられた視線を自分に戻すためだと理解しているタルタリヤは、肩を竦ませ『痴話喧嘩』が終わるのを待つことにした。
自分はこの想いを手放すことになるのか。それとも―――。
「公子殿を責めるな。今回のことは俺が無理強いしたんだ」
「だから! ボクが言いたいのはそれでも公子君が断ればよかったってことで―――」
「それをすることすら許さなかったんだ。だから責めるなら彼ではなく、俺を責めろ」
まだ怒っているウェンティを宥めるためか、『決闘』に至った経緯に触れる鍾離。
その言葉は想定外だったのだろう。ウェンティは綺麗な瞳が零れ落ちそうなほど大きく目を見開き、恋人を凝視していた。
「え? なんで? 彼は『人』だよ? 君、何考えてるの!?」
「すまない。だが、どうしても譲れない戦いというものがあることはお前も分かるだろう?」
詰る恋人に鍾離が見せるのは苦笑い。
随分お熱いことでと表情を引き攣らせるのはそれを目の前で見せられているタルタリヤだ。
勝手にウェンティに恋慕しているのは自分だが、わざわざ『自分がウェンティの恋人だ』と改めて見せつけてくる鍾離の独占欲には流石に苛立ちを覚えた。
「そういう戦いがあることは分かるよ。でも、それって今は関係ないよね? はぐらかそうとしてるんだろうけど、無理があるよ?」
「はぐらかしてはいない。ただ―――、ただ俺がお前を愛し過ぎているだけだ」
苦笑交じりにウェンティの頬に手を添える鍾離は、友人であれ番に手を出されれば平静ではいられない。とあくまでもタルタリヤの想いは『友愛』だと強調した。
何故彼は自分の想いを恋人に伝えないのだろうか?
そんな疑問を抱くタルタリヤだが、なんとなく、彼の言動の全てはウェンティを想ってのことなのだろうと理解できた。
心優しい恋人が僅かにも罪悪感を抱かぬようにという配慮は、ただ毎日幸せに笑っていて欲しい男の深い愛情ゆえだろう。
互いを想い合い、他者が付け入る隙など微塵もない程深い絆で結ばれている二人に、道化師にもなれないのかと悔しさを覚える。
「君がボクのこと大好きな事は知ってるよ? でも、だからって友達に嫉妬してこんな仰々しい戦いの場まで設けるのはどうかと思うよ」
「ああ。それは俺も理解している。……理解しているが、今日だけは許してくれ」
「…………公子君は、納得してるの?」
「! えっと……」
自分の存在など忘れて二人きりの世界を展開しておいて、突然話題を振らないでもらいたい。
意表を突かれたタルタリヤは返答に詰まる。納得しているかどうかと聞かれれば、『納得していない』になってしまうからだ。
だが、ウェンティと同じく視線を此方に向けてくる鍾離の眼光に、彼が返せる言葉は『納得している』以外無いのも現実。
(鍾離先生は俺の君への想いを叩き潰す為に戦おうとしてるんだよ。魔神に愛されるって大変だね、ウェンティ君)
この想いが報われないことはもう十二分に理解できた。ならば、いっそ華々しく散らせてみるのも乙ではないだろうか。