「心配してくれてありがとう、ウェンティ君。でも大丈夫。ちゃんと納得してるよ」
「本当に?」
「勿論! そりゃ君との『約束』を守れなかったのは残念だけど、鍾離先生の気持ちもちゃんと汲んであげないとね?」
優しい風神様にタルタリヤは頷き鍾離の眼光を真っ向から見返すと「何より、鍾離先生に遊んで貰えるしね」と笑顔を見せた。
その言葉が虚言であると知るのは二人だけ。ウェンティは心配そうな表情から眉間に皺を作り、「結局それじゃない」と呆れていた。
ウェンティに『嘘吐き』と思われることは本意ではないが、報われない想いを告げて彼を困らせることもまた本意ではない。
タルタリヤは元々ゼロだった信頼が元に戻っただけだと自分自身を納得させ、もしこの戦いに勝つことができればまた信頼回復に勤しめばいいとウェンティを見つめ笑った。
「わかった。二人が納得してるなら、ボクが何を言っても無駄だしね。でも―――」
「なんだ?」
「ウェンティ君?」
鍾離とタルタリヤを交互に見上げるウェンティは、二人が手にしていた武器に手を伸ばした。
何をする気だと訝しむ鍾離とタルタリヤ。ウェンティはそのまま二人の手から武器を奪い取ってしまった。
「えっと……、これって『戦うな』ってこと?」
「違うよ。止めても無駄なんでしょ? なら、少しでも怪我が少ないやり方にして欲しいだけだよ」
「つまり、『武器を用いずに戦え』ということか?」
「あと、元素力も。……文句ないよね?」
ウェンティの意図を瞬時に理解できるなんて流石恋人だと感心するタルタリヤ。
しかし、まさか元素力の使用まで制限されると思っていなかったのだろう。鍾離の表情が僅かに険しくなった。
彼の何故と問いたげな眼差しに、ウェンティが気付いていないわけがない。
タルタリヤも理由を知りたくて口を噤んだ。
この戦いが鍾離から持ち掛けられた『牽制』であることはウェンティも分かっているはずだ。
それなのにどうしてわざわざ恋人に不利な状況を作るのか。と。
まさか自分が勝つ可能性を作ってくれたのだろうか?
そう期待するタルタリヤだが、口を開いたウェンティの言葉によってその期待はあっけなく霧散した。
「君が『人』を傷付ける可能性を少しでも下げたいんだよ。……分かってるくせに」
「! だが、これは単なる手合わせではなく正式な『戦い』だ。俺が負ければ失うものがあると言っても、元素力を使うなと言うのか?」
「呆れた。何を『賭け』てるのか知らないけど、『契約の国』でアンフェアはどうかと思うよ。『人』相手にムキにならずに少しでもフェアになる戦いをしてよね」
なるほど。ウェンティは自分が勝てる可能性を作ってくれたわけではなく、自身の恋人が『人』を傷つける可能性を少しでも減らしたかっただけのようだ。
分かっていたが、一瞬でも期待した分どうしたって落胆してしまう。
タルタリヤはこれ以上惚気を聞いていられないと「俺はウェンティ君の言った条件で問題ないよ」と早々にこのやり取りを終わらせようと話に割って入った。