「君の不屈の精神には恐れ入るよ。まったく……。良い? 絶対武器も元素力も使わないでよ? もし使ったら、その時点で負け確定だからね?!」
「了解!」
「鍾離先生もだよ? 後、命を奪おうとは絶対にしないって約束して」
「ああ、分かっている」
ウェンティに誓いを立てる鍾離に倣ってタルタリヤも必ず約束は守ると宣誓する。
出した条件を全て承諾されてしまえば、これ以上文句を言う事も出来ないのだろう。ウェンティは「後はどうぞご自由に」と踵を返し、近くの切り株に腰を下ろした。
観戦するつもりかと尋ねれば、監視の目が無ければ約束が守られたかどうか分からないからと返されてしまった。
信用がないなと肩を竦ませるタルタリヤ。
自分はともかく、恋人に疑われている魔神の機嫌はいかにと振り返れば、身に着けたグローブを確認している鍾離の姿が。
気にする素振りもないその様子に、二人の結びつきをまた見せつけられたようで面白くない。タルタリヤが覚えるのは闘争心だった。
(勝てる見込みなんてゼロだったけど、でも、これはむしろ好機じゃないか。武器も元素力も使っちゃダメなら、拳一つで勝負ってことだろう?)
つまりこれから始まるのは、戦いという名のただの殴り合い。
圧倒的な力を持つ岩の魔神といえども元素力を封じられれば、ただの人も同然だ。『人』同士の殴り合いなら、勝機はまだ失われてはいない。
(悪いね先生。体術の心得もそれなりにあるんだ、俺はね)
見出した光にタルタリヤの闘志は燃え上がる。
興奮を表すように開いた瞳孔。光の消えた蒼で恋人を溺愛する魔神へと向き直れば、余裕面の男が右手を此方にまっすぐ伸ばしてみせた。
指を四本折り、『かかってこい』と挑発されれば乗らないわけにはいかないだろう。
タルタリヤは軸足に体重を乗せるとそのまま大地を蹴ってトップスピードで間合いを詰めた。
伸ばされたままの腕と交差するように右の拳を繰り出し狙うは人体の急所の一つ、顎だ。
相手の実力を軽んじていた魔神はスピードに追い付いていないだろう。
タルタリヤの目には自身の拳が精悍な顔を歪ませる未来がはっきりと見えていた。
(入った!)
先制攻撃は成功した。
そう確信したタルタリヤだが、相手の実力を軽んじていたのは彼自身の方だった。
拳を繰り出した青年の右腕に絡みつくのは鍾離が伸ばしたままにしていた右腕。
上腕を掴まれたと理解した次の瞬間、身体が宙に浮いた感覚を覚えた。
何が起こったのか理解するよりも先に、背中から全身に走る衝撃に自分が大地に倒されたことを知ったタルタリヤは驚き目を見開く。
直ぐに両手で大地を押し込んで身体を跳ね上げると、追撃に備えて構える青年。
だが、予想していた追撃は来ず、鍾離は左手を背の後ろに回し先と同様に右腕だけを此方に伸ばし余裕の笑みを浮かべていた。